色恋沙汰はどこまでも

 [おやすみ……なさい]

 [ん、じゃーな]

 電話が切れた後、最後の『ん、じゃーな』のトーンが優しすぎた担任の声が、なんでか耳にへばりついて離れなくなった。あんな優しい声で喋れる人なんだ、あの人。

 ── 翌朝

 「どこ行くんすか、そんな格好して朝っぱらから」

 「美智瑠っ……」

 「美智瑠ちゃんじゃないっすよね。あの子と遊ぶ時そんな格好しないじゃないすか」

 ごもっともすぎて言い返せない。いや、別にさ?担任に会うから気合いを入れた服装にってつもりはないよ?けどさ、いつもみたいなカジュアルよりもうちょっとしっかりしたほうがいいかなー?って思ったりして、ちょっとキレイめ系にしてみただけであって、本当に深い意味は全くない。

 「はぁー。担任とちょっと会うだけだって」

 「あ?」

 眉間にシワを寄せてひっくい声の龍が私にガンを飛ばしてくる。

 「たぶん日髙のことについてだと思うから」

 「俺も行く」

 「はあ?別にいいって、保護者でもあるまいし」

 「だいたい休日に呼び出すセンコーなんざ信用ならね」

 「いや、だからさっ」

 ピンポーンと鳴り響くインターホン。間違えなく担任だろうけど、すぐさまそれをモニターで確認したのは龍だった。

 「凛子さん、コイツすか」

 「ええ、まあ、そうすね……ってちょ、龍」

 ズカズカと玄関へ向かう龍を追って、『落ち着きなさい』と背中をベチンと叩いたら少し雰囲気が大人しくなった。ガチャと玄関ドアを開けるとそこにいたのはしっかりスーツを着て、昨日のめんどくせぇーって雰囲気がまるでない担任。どう表現していいのか分かんないけど、ワイルド系が爽やかワイルド系になった的な?