「私は、グレグのものなんでしょう? だったら、呪いは解いても紋章は残しておいて」

「……。お前は、俺のものになりたいのか?」

 その言葉に、私は顔を真っ赤にして、彼の胸で「うん」と小さくうなずく。

「な、なにを血迷って……。やっぱり消す」

「いぃーやぁっっ!!」

「だから、どうしろって言うんだ!」

 そんなの、聞かれなくたって決まっている。

「自分で紋章を付けた以上、私はあなたのものよ。あなたは自分の印をつけたものを、守る必要があるわ」

「はい?」

「大魔法使いグレグが、意味もなく自分の紋章を私に与えたってわけ?」

 ぐっと黙り込んだ彼を見上げる。
魔法使いの紋章は、自分の所有物であるという特別な意味を持つ。
魔法使いの紋章がつけられたものに、他人が許可無く触れることは、決して許されない。
それが魔法使いの紋章だ。

「本当に、呪いを解かなくていいのか?」

「私とグレグの間に女の子が生まれたら、その子にも紋章がつく?」

「今から呪いを解く」

 彼は私の頭上に手をかざした。

「だぁめぇぇっー!!」

 左の腰が熱い。
やだ、嘘、やめて。
本当に消した? 
今すぐにでもドレスを脱いで確かめたいけど、みんなの前でスカートをめくり上げることは出来ない。

「待って。グレグお願い。呪いは解かないで」

 だって、まだ何にも始まっていない。
ようやく私の前に、彼は本当の姿を現してくれたばかり。

「そうじゃなかったら、こんなこと言わない。だからお願い。私のそばにいて」

 腰に付けられた紋章の熱が引かない。
グレグの目は妖しい光を放ったままだ。

「これから私の見る世界を、あなたにも一緒に見てほしい。あなたはヘザーさまの未来を思って、後の子孫となる私にこの呪いをかけたんじゃないの?」

 ねぇグレグ。
私の髪が、かつてあなたと戦ったひいお祖父さまと同じ髪色なんかじゃなくて、あなたの愛したヘザーさまと同じ色だったら、私のことも愛してくれた? 

「……。分かった。お前に付けた呪いの継承は、お前の代で終わらせる。だが紋章をつけた責任は、この俺が大魔法使いとして果たそう」

 その言葉に、ドッと周囲から歓声が上がる。
大魔法使いグレグが、大勢の前で交わした約束は絶対だ。

「やった! ありがとうグレグ!」

 これでずっと一緒にいられる。
もう一度彼に抱きつくと、私を引き離そうとする彼の腕を思いっきり抱きしめた。

【完】