物語ははじまらない


 私は夢見る乙女であったようだ。なんたって今、私の目の前にいるぼやけた喋る生物は自らを「神」だと名乗った。神がいるならば、このような悲劇は避けられるよう計らって下さるのがお役目ではないのだろうか。

 そんなストーリーにはありがちで、私は両親から虐待を受けており、生傷の絶えない小学生の女子であった。
 皮膚には煙草の火を押し付けられて出来た火傷の痕が水玉模様のように点々としており、腹や背中には蹴り飛ばされた為に青あざをこさえ、いついなくなっても誰も困らない身の上だ。
 自分で言うのも何なのだが、まあまあ不幸ではあったと思う。

 その上お決まりの展開でトラックに撥ねられ二目と見れぬ肉塊へとなり果てた。

 こうなってやっとで現れるのか、神と言うものは。
 幸せになりたいと、あれだけ願ってきたと言うのに。

 しかしこの神、随分と薄汚れてガリガリな、まるで家族を知らぬような見た目をしている。

 その神に、「転生チート」くらいは知っているだろう、と軽い説明を受け、別の世界で姫となることに興味はないか、と誘われた。

 私は神の前にしゃがむと、お手、と言う。
 「Dog」を逆さにすれば「God」だものなあ、などと。

 「チートや姫より、犬と楽しく暮らしたいわ」

 私の言葉に、神はクーンと甘えて手を乗せた。