相談室のきみと、秘密の時間

「ただいま」

「姉ちゃんおかえり」

お昼前、弟のゆずが珍しくキッチンに立っていた。エプロンがびっくりするほど似合ってなかった。

「何の騒ぎ? 天変地異の前触れ?」

「母さんが明日姉ちゃんの卒業式に絶対出るって夜勤だから。せっかくご飯作ってあげてたのに!」

「メニューは?」

「冷やし中華だけど」

「今は三月だよ?」

「美味しいから良いじゃんか」

「そう……」

この世の弟というものは凡そ常識は通じないものなのだ。

「姉ちゃん、明日には家を出るんでしょ」

「大学生活の準備があるからね」

「変わったよね。姉ちゃん。今の姉ちゃんはスッキリして迷いがない......前も優しかったけどさ!」

「ツンデレか」

照れ隠しを吐き捨てて私が部屋に戻ろうとすると、何故かゆずも後ろから付いてきた。
振り向くと、ゆずはいつの間にか大きくなった体を私の胸に埋める。柔らかな髪を撫でた。

「どうしたの?」

「俺の料理じゃ全然美味しくできないし.......直ぐに帰ってきて」

「いずれはね」

「絶対約束だから!」

「ゆずは馬鹿でいつまでも世話の焼ける、馬鹿な弟だよ」

馬鹿馬鹿言うなと怒ったゆずの瞳から涙がこぼれ落ちた。とても綺麗だった。

「姉ちゃん、好きな人出来たでしょ?」

「うん。ずいぶん前に、遠くに行っちゃったけど」

「大丈夫。また必ず会えるよ。行ってらっしゃい、姉ちゃん」

「行ってきます」

お父さんもお母さんも弟も、かけがえのない家族。

始めからこうして素直でいたらもっと上手くいったかもしれないなんて後悔するだけ無駄でしかなくて、だったらこれからは真っ直ぐに生きていこう。
これからは大切にしようと、そう今は思える。
未来は今、私の手の中にある。