相談室のきみと、秘密の時間

「あの日のことは私にとってもかけがえない時間でした。離婚して、どう受け止めていいか分かんなくて。私の方こそ、ずっと支えられてきたんです。なのに、慧悟さんだってこと、忘れちゃってごめんなさい」

「いいんだ。お互いに六歳も若かったんだし」

「でも私はちゃんと覚えてなきゃいけなかった」

「ただあの日、君が僕を呼んで、僕は君を呼んでいただけなんだって今は思う。そういう偶然は起こるんだって信じたい。

これが全部。あの日から少しずつ、僕はただ生きてきた。何とか生き長らえてきたと言ってもいい。精神科に通い薬を飲んで。

そんなある日、市内一番の進学校で仕事を見つけた。もしかして君がいるかもしれないって最初から分かっていて引き受けた。

名簿で君の名前を見つけた時は胸が高鳴った。こっそりと教室に君の姿を見に行ったことだってある。ハハ、あの時の僕、完全に不審者だったな。でも君に会えて幸せだったーー」

「声をかけてくれたら思い出せたのに」

そこで慧悟さんは組んでいた足を伸ばしながら「何だか喉が乾いたな。話すのってカロリー使うよね」と言ったので、私は近くにあったカフェスタンドでいつも2人で話す時のようにコーヒーでも買ってくると言って席を外した。

コーヒーを買って戻ると、そこにはもう慧悟さんの姿はなかった。

「慧悟さん!! どこ?」

私はコーヒーを放り投げて、走り出した。迷惑なのは分かっていたけど、そんなのは後でいくらでも謝ればいいんだ。
慧悟さんだけが今、大切なんだ。