相談室のきみと、秘密の時間

「お母さんのことを誇りに思うよ。だから言いたいことがある」

一呼吸置いてから、言った。

「私、村越さんに救われた。だから今度は村越さんに恩返ししたいって思ってるんだ。
それがどういうことなのか、何をすればいいのかまだ分からないけど、何かを選ぶためには何かを捨てなきゃいけないんだよね。だから、先に謝っておきたいの。ごめんなさい。」

「村越さんが一番大切なのね」

「うん」

村越さんは何とも言えない表情で私たちを見ていた。

「お母さんは彩葉がどんな道を選んでも応援できるように準備してきたつもり。だから納得できるまで足掻きなさい。若者の特権よ」

「親孝行とか出来ないかもしれない」

母は吹き出した。

「ニートにでもなる気なの?」

「高校を出たら実家は出る。ちゃんと生活してくよ」

「すごいじゃん。お母さんより自立してる」

「普通だよ?」

「普通じゃないよ、当たり前なことなんてない」

村越さんがそこで言った。

「ーーみんな自分の人生を、懸命に、まさに命をかけて生きている。それに普通なんてない」

ずっと、私は普通でいたかった。
そしたら、安心できた。
でもそれは違う。私は何かを失ったとしても何かを選びとる。

「お母さん、村越さん、ありがとう。私も信念を貫ける人間に必ずなってみせるよ」

「こちらこそ」

村越さんは黙ったまま静かに笑っていた。

「だそうですよ、村越さん。ぜひこれからも彩葉と仲良くしてあげてくださいね」

村越さんの返事を聞く前に話は終わりのようねと、母が席を立ったので、私は校門まで母を送ってきますと言って、相談室を出た。村越さんは丁寧に頭を下げた。