相談室のきみと、秘密の時間

お母さんは笑った。私はその顔を見てすごく悲しくなった。

その顔は何の屈託もなくて母にとってこの事実の重みも痛みも全てが既に受け入れられたことなんだと分かった。あれからもう六年だ。

「あのね、彩葉。間違わない人間なんていないんだよ」

「そうだとしても! そのせいでお母さんずっとひとりで苦労ばっかりしたじゃない」

「好きだったから。あの人のこと、応援したいと思う気持ちも本当だったから。本当に愛しているなら、ただ元気で生きているだけで十分なんだよ。でもこれはお母さんのわがままだから、言えなかった」

「もうお母さんはつらくないの?」

「うん、優しい子供たちが居て幸せだよ。それにね。誰かを憎んで生きるのはしんどいよ。そんな人間はどんどん心が荒んで自分らしさがなくなって望む幸せから遠ざかっていくんだよ。だからお母さんはそんな気持ちを皆が笑っていられるような力に変えていきたいって思ってる」

「お母さんは強いんだね。すごくすごく頑張って今のお母さんが居るんだね」

「そんなことないよ。お母さんはただおばさんになっただけよ。おばさんになっておばあちゃんになっていくだけよ。私はそれでいいって思えるのよ。

彩葉に今まで隠していたつもりじゃなかったけど、あなたもずっとお父さんみたいに心を塞いで、そのままでいることを望んでいるように見えて。だから言えなかった。ごめんね」

いつも明るかった母がハンカチで目尻を拭った。
私も思い切り泣いた。
すぐに謝りたかったが言葉が出てこなかった。

全ての話を聞いていた、村越さんの瞳も揺れていた。
窓の外には今日も雪が降り積もっていた。
風が強く吹雪いて、窓から見える木の枝が折れそうなくらい揺れていた。