相談室のきみと、秘密の時間

少しの沈黙の後、村越さんが口を開いた。

「お母様はここにいらしたから、なんでも話さなくてはいけないわけではないんです。話したいことや話しやすいことからでも構いません」

「いえ、ただ何から話せばいいのかなって思っちゃって。結弦(ゆずる)……というのはこの子の弟なんですが、からは何も聞いたことなかった?」

「ゆずは何も言わなかった。知らないんだと思ってた」

「そう。ゆずは知っているわよ。知ってて黙ってたんだと思う」

「どうして?」

「正解のないことだから。お姉ちゃんを困らせたくなかったんだと思う。お父さんはね、アメリカで機械工学を研究してるよ。元気でやっているし毎月電話もしているし養育費として十分すぎる額ももらってる」

衝撃だった。
父親は私は記憶している限り、ネジやバネなどの機械の部品を専門とするメーカーに勤務するただのうだつの上がらないサラリーマンだった。

品川の高層マンションに住んでいたけれどそれは叔父さんの所有するものだと聞いていたし、一度職場に連れていかれた時に見たのはメーカーとは名ばかりの下町を感じさせる古臭くて小さな工場だった。

「どうしてそれが離婚になるの?」

「夢が諦めきれなかったから、なんて言うとロマンチックが過ぎるかもしれないわね。私はあの人と結婚してすぐに子供ができたの。彩葉、あなたのことよ。

二人ともまだ24の時だった。きっと神様からの授かり物だから尚更しっかり働かなきゃなってあの人言って、私たちは直ぐに入籍した。叔父さんに頼んで高輪にマンションも買って、あの人も小さな工場に就職した」