「ただ木の模様がリアルに描かれているところは、やっぱり君の繊細さを表現しているように見えるし、そして何よりこの洞(うろ)が君の心の穴なんだね」
「洞ってこの鳥の巣のことですか」
「そう、これは洞とか樹洞(じゅどう)って言って、もしこの中に本当に鳥が住んでいたら何だかホンワカするよね。でも君の洞は空洞のまま。これは何で描こうと思ったの?」
「何でだろう、私はこの木を小学校の頃、通学路にあった桜の木を思って描きました。当たり前だけど、その桜の木には実も洞もありませんでした。でもこの木を描く時にはこれがどうしても必要だって思ったんです」
「この桜の木と別れたのは、君の両親が離婚してこっちへ来た時だね」
「そうです。突然のことだったし、夏休み中だったから桜の木だけじゃなくて、クラスメイトにもお別れが言えませんでした」
「洞の大体の位置から年齢も推測できるんだが、その時の傷がこうして洞となって今も君の心の流れを押し留めているように思う」
「でも私はその洞をどうすれば良いんでしょうか。簡単に消したり埋めたりできるようなものではない気がするんです」
「そうだね。きっと今出来るのは洞についてよく知ることと知った後に受け入れることだって思う。君にはもうそれができるんじゃないかって信じてる。君が本当に今知らなければならないことは何だと思う?」
私はしばらく考え込んだ。
以前よりそれは時間をかけることなく、簡単心に浮かび上がってきた。
「親について、でしょうか。私は父親についてほとんど何も知りません。生きているのか死んでいるのかさえ知らなくて。
でもあの9歳の夏に沢山のものを失ったし、友達や学校やそれまで当たり前にあった世界の全てのものを理不尽に奪われた。
ただ子供だからというだけで抵抗すらできなかった。それが悔しくて……今もすごく怖い」
私がそう言うと、村越さんは何も言わずに抱きしめてくれた。
すごく温かくてすごく悲しかった。
「洞ってこの鳥の巣のことですか」
「そう、これは洞とか樹洞(じゅどう)って言って、もしこの中に本当に鳥が住んでいたら何だかホンワカするよね。でも君の洞は空洞のまま。これは何で描こうと思ったの?」
「何でだろう、私はこの木を小学校の頃、通学路にあった桜の木を思って描きました。当たり前だけど、その桜の木には実も洞もありませんでした。でもこの木を描く時にはこれがどうしても必要だって思ったんです」
「この桜の木と別れたのは、君の両親が離婚してこっちへ来た時だね」
「そうです。突然のことだったし、夏休み中だったから桜の木だけじゃなくて、クラスメイトにもお別れが言えませんでした」
「洞の大体の位置から年齢も推測できるんだが、その時の傷がこうして洞となって今も君の心の流れを押し留めているように思う」
「でも私はその洞をどうすれば良いんでしょうか。簡単に消したり埋めたりできるようなものではない気がするんです」
「そうだね。きっと今出来るのは洞についてよく知ることと知った後に受け入れることだって思う。君にはもうそれができるんじゃないかって信じてる。君が本当に今知らなければならないことは何だと思う?」
私はしばらく考え込んだ。
以前よりそれは時間をかけることなく、簡単心に浮かび上がってきた。
「親について、でしょうか。私は父親についてほとんど何も知りません。生きているのか死んでいるのかさえ知らなくて。
でもあの9歳の夏に沢山のものを失ったし、友達や学校やそれまで当たり前にあった世界の全てのものを理不尽に奪われた。
ただ子供だからというだけで抵抗すらできなかった。それが悔しくて……今もすごく怖い」
私がそう言うと、村越さんは何も言わずに抱きしめてくれた。
すごく温かくてすごく悲しかった。


