相談室のきみと、秘密の時間

それには何も応えず、あそこの岩場に上がってみないかと、村越さんは手を引いた。
やっぱり細くてひんやりとしたガラスのような手だった。

岩場は他より3メートルほど高くなっていて、 ゴツゴツとした部分に足を引っかけながら階段のようにして何とか上に上がると海が更に遠くまで一面に見渡せた。

邪魔なものは何もない自然だけが広がっている。
広さで言うと2畳ほどの大きな岩でこんなものは一体いつどこからやってきたんだろうとぼんやり思っていると、村越さんはおもむろに岩の上によいしょと座り、隣に来るように促した。

「さすがにこの高さまで波は来ないだろ」

「そうですね、濡れたら着替えはありませんが」

「そういえば今日も制服なんだね」

「午前中は学校で自習してたんです。習慣なのでしないと落ち着かないんです」

「君らしい。真面目で素朴で、一生懸命で優しくて、そしてとても可愛い」

「からかっているんですか」

「違うよ。懐かしく感じていただけ。僕にもそういう時があったなあって。
あのね、僕は物心つく頃にはカウンセラーになるんだって決めていた。君が今真剣に悩んでいる将来の夢を、始めから既に持っているつもりでいた」