相談室のきみと、秘密の時間

それから5分ほど車を走らせると海岸沿いに出て、近くの駐車場に車を停めた。

まだ8月と言えどもう泳げるような暑さでもないし、海岸近くはカニ釣りをしている親子が一組いただけで、飲食店も土産屋も閑古鳥が鳴いていた。

海はとても綺麗だった。村越さんは「日本海を見るのはきっとはじめてだよね」と聞いてきたので素直にうなづいた。

初めて見る日本海は遠くから見るとエメラルドグリーンで、海岸近くで覗くと透き通っていて海底まで余裕で見渡せる透明度だった。

「本当にこんな景色があるんですね」

「これからも君ならたくさんのこういう景色を見れる」

「そうでしょうか……。うち親が離婚してて。離婚する前に家族みんなで海に行ったことがあったはずだけど、親の不機嫌な顔しか思い出せません。
だから透き通った海なんて写真か本でしか見たことなかった。本当にあるのか分からないと思ってた」

「それなら今度は自分の足で探しに来ればいい。そう願えることが人生では、なんていうと堅苦しいけど今の君にとってとても必要なことなんだと思ったから、僕はここに連れてきた」

親の話をするといつも周りの大人は一通り同情した後に、あなたはお姉ちゃんなんだから頑張りなさいと話を切り上げた。

村越さんは家庭の事情についてはそれ以上何も触れなかった。
村越さんには何もかもがお見通しなのかもしれない。

そこでもしかしたら、村越さん自身が同じ気持ちになったことがあるから良くしてくれるんだと気がついた。

「村越さんも同じなんですか? 村越さんも何かに迷ったり、届かないことを願ったりしているんですか」