相談室のきみと、秘密の時間

「どうぞ、今日はカフェインレスにしてみたよ」

「へえ。初めて飲みます」

私はそのコーヒーをフーフーと息を吐いて冷ましたあとに飲んでみる。

「うん、結構違うものなんですね」

「分かる? 有り体に言えば味が薄いし香りのパンチも弱いんだけどね。でも優しい味がして好きなんだよね」

「分かります。味わい深いですね」

村越さんはお褒めいただきありがとうとぺこりと頭を下げると、また例の宇宙と交信をするかのように、何も無い空間をしばらく見つめ続けた。

「前回の君の話をあれから僕なりに考えてみたんだけど、君の心には怒りが眠っていると思った」

「怒り……」

私にはこれという心当たりがなかった。でも村越さんに言われると不思議とそんな気がしてくる。

「君はあんまり多くを語らないけど、心の中でもきっとそうなんだろうね。自分の気持ちを心に浮かべて意識するまでに時間がかかる。

多分人より慎重になっているんだと思う。だからまだ自分でも気が付いていない本当の気持ちが眠ったままになっているんだと思う」

「それなら村越さんは心も実際もお喋りなんですね」

「そうだな。君だって僕のことはそうしてよく見えているのに自分自身のことは全然だろ」

「うーん何でだろう」

「そんなものだよ。自分のことは自分が一番分かってるって思い込んでる。でもそれはある一面ではそうかもしれない。例えば体調だったりその時食べたいものだったり。

だけどある面では他の人から見た景色の方が実はかなり正確で客観的に見えることもある」

それから村越さんは一呼吸置いてからまるで言葉を大切な布かなにかで包み込むようにして言った。

「みんな自分の心は近すぎるからよく見えないのかもね」