【完結】失恋したら有名シェフが私を溺愛包囲網で包み込みます。



 私は龍樹の腕を引っ張ると、背中を押してそのまま部屋から追い出した。

「っ……あのクソ野郎!」

 いい加減にしてほしい。アイツ本当に、自分のことばかりだ。
 私のことなんてどうでもいいんだ。

「っ……泣くな、私」

 こんなところで泣いたら、私は負けたことになる。 

「豊佳……!」

 下を向いて俯いていた時、私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。  

「え……?」

 振り返ると、そこにいたのは龍樹ではなく……。
 
「翡……翠、さん……?」

 どうして……? どうして……?

「大丈夫か、豊佳」

「翡翠さん……?」

 私を優しく抱きしめてくれた翡翠さんは、「豊佳、無事で良かった」と頭を撫でてくれた。

「どうして……?」

「なんか、イヤな予感がして戻って来たんだ」

 イヤな……予感?

「やっぱり予感が的中したんだな」

「翡翠……さん」

 私は「来てくれて、ありがとう」と翡翠さんの背中に腕を回す。

「まさかさっきのアイツ……もしかして例の元カレか?」

 私はそう聞かれて、静かに頷いた。

「……豊佳、アイツに何かされたか?」

「え……?」

 翡翠さんは私の手をギュッと握ると、「アイツに、何かされたか?」と優しく聞いてくれる。

「……キスされて、押し倒された」

「なに?キス、されたのか?」

 頷くと、翡翠さんは「豊佳、怖い思いさせてごめん」と髪を撫でてくれた。

「翡翠さん……ごめんなさい、私……っ」

 私の言葉を遮るように、翡翠さんは私に優しくキスをしてくれた。