龍神島の花嫁綺譚


「初めて会ったときから陽葉のことは特別に思っていた。霊力などなくても、魂でわかる。だが、おまえは何も知らずに身代わりとしてここへ来ただろう。ほんとうなら、今世では俺たちとは関わりなく生きていくことができたはず。もしかしたらそれを望んでいたから、霊力を持たずに生まれてきたのかもしれない。それなのに俺が不用意にそばにおけば、おまえが人里に帰る選択をしたときに心を惑わせることになる。知っているだろう? 五頭龍に心を囚われた人間は、島から出られない」

 白玖斗の言葉は、まるで陽葉が彼に心を奪われることがわかっているような言い方だ。

「俺はずっとおまえを愛しているから、おまえの望むように今世を生かしてやりたい。それで、おまえが自ら俺を選ぶまではと、触れないように我慢していた。だが、もうそれも必要ないようだ」

 ふっと笑うと、白玖斗が手のひらをあてて陽葉の目を覆う。

「な、に……」

 暗くなった視界に怯えていると、ふいに遠くから誰かの声が聞こえてきた。

『白玖斗様、どうか今世では陽葉のままの私を愛してください』

 そう願うのは、天音の声。

『もちろん、陽葉が俺を選べばな』

 白玖斗の声が、優しく答える。

 交わされる会話は、陽葉が意識を閉じようとしたときに白玖斗と天音の間で為されたものだ。