すごく張り切った自己紹介。勇気も出して頑張った自己紹介。
めっちゃ恥ずかしかったんだよ?
「彼氏欲しい!!」とか馬鹿な発言して注目浴びちゃって、男子からは期待に満ちた目で見られて。
なのにさ?
休み時間になずなには爆笑されるし、凌はあれから心なしか冷たい態度取ってくる気がするし。
私だって一般的な女子高生としての発言じゃないんだよ?
だってこのままだと私、19の誕生日に死んじゃうんだよ?
絶対回避したいじゃん。
じゃあ、何としてでも結婚しないとじゃん。
しかも最悪なことに私の誕生日は4月13日。仮に良い相手を見つけられずに大学入学しても、そんな短期間じゃ無理に決まっている。
高3初日から延命しようとすることの何が悪い。
…って言えたら楽なんだけど。
悪魔との契約内容は「本当に信頼できる1人に必要になった時にだけ口外して良い」と。
だから今日まで下手に行動も出来ず。勿論私が一番信頼してるのは凌だから、本当はすぐにでも凌に話したかった。
でも、どれだけ話そうとしてもあの契約の事だけは話せなかった。
物理的に。
声は出せないし、視界は歪み始めるし。悪魔のアモールさんが言ってた「必要な時」は今じゃないんだなって何度も痛感させられた。
最初の頃は毎日チャレンジしていたけど、途中から辛くなってやめた。もちろん精神面ではなく、肉体面である。
凌に「なんか隠し事してる?」って聞かれても、「乙女の秘密を暴くつもりですの?」って返してしまう程には辛かった。私はどこぞのお嬢様か。
そんな私の裏事情はさておき、さっきから凌の冷たい視線が刺さって痛いので、本人に原因を聞いてみようと思う。
大丈夫。こんなこともあろうかと、頑なに抵抗しようとする凌を無理矢理空き教室に引っ張ってきておいた。グッジョブ、私。
……ほんとごめんってば!!勝手に連れてきたこと、反省してるから!!そんな睨まないで!!!
「ねぇ凌?怒ってる?私、何かしちゃった?」
「…嘘つき」
「……え」
所詮幼馴染、されど幼馴染。凌が放ったそのひと言は私の何かを確実に抉り取っていった。
「どういう意味?」
「今までは彼氏いらないって言ってたでしょ」
え?
そうだっけ…言ったわ。
幾度となく言いました。
彼氏なんかいらない、だって私は凌の方が大事だもんって。
お母さんからは、じゃあ凌くんと付き合えばいいじゃないって返された記憶あり。無理って断ったけどね。
だって──。
「なんで急に彼氏欲しいなんて馬鹿な事言ったの?」
ほら。また馬鹿って言った。
凌とは幼馴染として、お互いのことを遠慮も躊躇もなく馬鹿と言い合える非常に良好な関係を築いてきた。
でも、それは幼馴染だから良いのであって、恋人になるにはあまりにも相手を立てる心が足りないと思う。
私は凌のことは一応尊敬はしてるけど、長所を3つ思いつくより先に短所が10個は余裕で思いつく始末だし。
「実はね、私、ひとつだけ凌に話してないことがあるの」
「それが紫乃が彼氏欲しいなんて言ったのとどう関係があんの?」
「私、19歳の誕生日までに結婚しないと死ぬの」
あれ!?言えた!!
ずっと言えなかった秘密をようやく口に出来た安心感でにまにましている私と対照的に、凌の顔はどんどん険しくなっていく。
怖い怖い怖いやめろせっかくの美形が台無しだわ
「紫乃」
「ひゃ、ひゃい!」
美形が怒るとすんごい怖いってよく言うじゃないですか。しかもオーラが凍ってるよ。やめてくれ、君を人殺しにはしたくない。
「詳しく説明して?」
…私の方がテストの点も断然高いのに、凌がめっちゃ頭良く見える。これが美形補正…恐るべし。
「紫乃?早く」
凌が距離を詰めてくるけど、これ以上は無理だ。そんな近付かれたら心臓に悪い。
あ、凌が学校内でもトップクラスのイケメンだからとかそんな理由ではなくて。普通に怖い。
美形は人を睨んじゃいけないのだよ、凌くん。
そんなことを考えながら、私はまた後ろへ後ずさり、私と凌の間には再びちょうどいいくらいの車間距離が出来る…はずが。
「え?か、壁?」
「これで、もう逃げれないね。全部俺に話してよ」
「は、はいごめんなさい」
なんかいつもと雰囲気違くない!??
凌ってこんな感じだったっけ?
優しさが微塵も感じられないけど、口調だけ優しい。こんな姿見たことない。
凌は、感情が表情にすごい反映されるもん。
西園寺くんなら分かるけど…。
あ、もしかして西園寺くんのせい!?
3年間も一緒にいればそりゃあ影響受けるよね。
おのれ、西園寺くん。
うちの凌に余計なこと吹き込みやがって。
「紫乃ちゃ〜ん?」
「ひぃっ」
いきなりちゃん付けとかやめてくれ。悪寒がする。
そしていきなり壁ドンもやめてくれ。心臓に悪い。絶対今寿命縮んだ。
こうして、複数の意味で海外のバトル映画並みにアクション満載の凌によって、私は全てを白状させられたのであった。
2年前の事故で危うい状態になった時、悪魔に契約を持ちかけられたこと。
その契約内容が私の怪我をある程度治してくれる代わりに、私の命を捧げる、だったこと。
ただし、19歳の誕生日までに結婚出来れば免除してもらえること。
タイムリミットが近づいてきたというのに、結婚どころか彼氏すら出来ず、半分やけくそで自己紹介の時に彼氏欲しい発言を実行したこと。
──そして、この話は信頼できる人ひとりにだけ必要な場面で話せること。
今までずっと相談したかったけど「必要な場面」じゃなかったみたいで話せずにいたことまで全部吐かされた。
絶対この人尋問得意だ。私も途中から罪人気分だったもん。
そんな天才尋問官(笑)・水瀬凌は、私の話を聞いてしきりに考えた(素振りをした)末、結論を出した。
「じゃあさ、それ、俺にしたら?」
「はぁぁぁ!??」



