私にとって、1番はずっと凌だった。
幼稚園児の頃。他の子たちとはほぼ言葉も交わさず、ひたすら凌と遊んでいた。
今振り返れば、もうちょっと他の子とも仲良くしておけば良かったとも思うけれど、まぁ楽しかったから良しとしておく。
小学生の頃。凌と今ほど会えなくなるくらいなら、生涯独身でもいいと割と真面目に思っていた。
ちなみにこれ、結婚パターンだけでなく彼氏パターンも存在したため、お母さんは以降10年近く、凌くんにしときなさいよ、と私に言う羽目になる。
中学生の頃。周りの人たちに猛反対されながらも、今の高校を選んだ理由は凌の志望校だったから。
唯一笑って許してくれたのは、私が人生の中心に凌を据えてきたことを嫌と言うほど知っているお母さんだけだった。
水瀬家の方々には、考え直すように何度も言われたっけ。
高校生の入学式の翌日。自分の安全をフル無視して、私が守ろうとしたのは凌だった。一緒に助かる道を探せればそれがベストだったが、やっぱり私の運動神経じゃ無理だったと思う。
「ふーん、紫乃の中で、俺は1番だったんだ!嬉しいな」
「ひあっ!?」
回想中に突然耳元から聞こえた凌の声に、驚きのあまり変な声が出てしまった。凌の言い草からすれば、もしかして私の回想シーン、筒抜けだったのでは??
「き、聞いてたの!??」
私の心からの叫びに、満面の笑みを浮かべている凌は口を開いた。
「ばっちり聞こえてたよ」
嘘でしょ!!??
ちょっと現実逃避しながら今の状況を説明させてくださいな。
今日は午前授業だったため、食事に飢えていた私たちは、いつメン4人でファミレスに駆け込んだ。
そして、私以外の3人はドリンクバーでなぜか大はしゃぎしていたから、容赦なく置いてきた。
たぶんジュースを5種類くらい混ぜていたのだろう。
他人の宿題を写そうとするところ等が幼い凌や、精神年齢は普通だが、楽しむ時は全力で楽しむなずなはともかく、この中では1番大人であろう西園寺くんまでドリンクバーで遊んでるのは意外だった。
こうして、友人たちを置き去りにしたという悲しい経緯で暇人と化してしまった私はひとり、回想に耽っていたというわけだ。
長々と説明してしまったが、要するに凌が喋ってるように見えても、聞こえてくる声の選択肢は凌以外にもあるわけで。
「その声は西園寺くん…?」
「正解。あ、凌、今度なんか奢ってね」
「水瀬くん、あたしと紫乃の分もよろしく」
「えーっと、これって何の会話?」
凌に何かを3人分奢らせようとしているのだけは分かったけど、それ以外は全く分からない。きっと私がいない間に話が進んでいたのだろう。寂しいものだ。
「凌の馬鹿が、紫乃さんは僕の声を覚えてないってしつこいからさ、ちょっとした賭けをしてたんだよね。ジュースでも奢らせる予定だから楽しみにしてて良いと思うよ」
なんだ、そのふざけた賭けは。少なくとも私、凌くんの倍は記憶力良い自負あるんだけど。
あんま面識ない男子ならともかく、恋人(もう婚約者って言った方がいいのかな?)の親友または親友の恋人であり、いつメンの西園寺くんの声くらいは流石に覚えてますって。
「てか聞いちゃったよ〜、紫乃の独り言。紫乃ってば、ほんっとに水瀬くんのこと大好きだね!!」
あー、やっぱり情報屋が黙ってなかったかー!
家の職業的に噂話を入手しやすいのはもちろんなんだけど、なずな自身も恋バナ好きなのもあるんだよなぁ……。
「え〜、紫乃はそんなに俺の事好きなの?俺も紫乃が本当に好きだよ」
そうだよね。この流れは絶対に凌くんも乗ると思った。
このセリフが日常と化してしまってもなお、確実に私の心を射抜いてくるのは、やっぱり凌くんの無駄に整った美貌のせいだろうか。
なずなの隣に座ってる西園寺くんも、ひたすら視線がうるさいし。
からかってくるなずな、愛を囁いてくる凌、視線だけが騒音な西園寺くん。…これ私、もう逃げ場ないのでは??
よし、更なる追及をされる前に投降しよう。
「あーもう認めればいいんでしょ!?好きですよ!!めっちゃ好き!!!これでいい!??」
私がやけくそで言い切れば、なずなは呆然としていた。
「まさか紫乃がここまで素直になる日が来るとは……」
ん?
「この2人、あと何年かかるかなーって心配してたけど、杞憂だったね。凌、紫乃さん、お幸せにね」
んん??
「あの、これ私、試されてたパターン?」
「そういうことになるね」
西園寺くんが気まずそうに、そう言って笑う。
他に出来ることがなかったとはいえ、やけくそでも自分の気持ちを大声で言うの、めっちゃ恥ずかしかったんですけど。
私のドキドキを返せ!!!…使い方違う気はするけど。
というか、今日の私は何かしらの策にはめられまくっているんだが。
今朝の通学中も、凌にひたすら敬語を使われるという、心底くだらないドッキリを仕掛けられたばかりだし。痛くも痒くもあるわ。
私が心の中で、この1日で私に仕掛けられた全てのドッキリに恨み言を連ねているとはつゆ知らず、なずなはいつも通りの愛らしい表情を、ほんの少しだけ曇らせながら言った。
「実はあたしたちね、ずっと紫乃たちのこと、心配してたの」
人の感情にひどく敏感なはずなのに、変なところが鈍い凌が口を開く。
「心配って?別に俺と紫乃は上手くやってると思うけど」
「凌だけが紫乃さんのことを好きだったら、苦しむのは凌しかいないし良かったんだけど」
「おい、奏太、お前ふざけんなよ」
一瞬でキレた凌が、喧嘩腰で西園寺くんに突っかかる。その姿がライオンみたい──なんて思ってしまったことは墓場まで持っていこうと思う。
本気で怒っているであろう凌ももちろん怖いけど、それを受けて、なんてことないように流す西園寺くんが1番得体が知れなくて怖い。
「紫乃も無自覚ながらも水瀬くんのこと、好きっぽかったから」
「まぁ……、否定はしないわ」
私の言葉に、凌の攻撃がピタリと止まる。少し赤くなった頬を緩める凌に、西園寺くんがここぞとばかりに完全に手加減したカウンターを放っていた。
色々と問題はあるものの、私たちは、本当にいい友達を持ったと改めて思う。
将来、お互いの関係になにか別の名前がついたとしても、形が変わろうとも、ずっとずーっとこの人たちを大切にしていきたいな、と強く思った。
幼稚園児の頃。他の子たちとはほぼ言葉も交わさず、ひたすら凌と遊んでいた。
今振り返れば、もうちょっと他の子とも仲良くしておけば良かったとも思うけれど、まぁ楽しかったから良しとしておく。
小学生の頃。凌と今ほど会えなくなるくらいなら、生涯独身でもいいと割と真面目に思っていた。
ちなみにこれ、結婚パターンだけでなく彼氏パターンも存在したため、お母さんは以降10年近く、凌くんにしときなさいよ、と私に言う羽目になる。
中学生の頃。周りの人たちに猛反対されながらも、今の高校を選んだ理由は凌の志望校だったから。
唯一笑って許してくれたのは、私が人生の中心に凌を据えてきたことを嫌と言うほど知っているお母さんだけだった。
水瀬家の方々には、考え直すように何度も言われたっけ。
高校生の入学式の翌日。自分の安全をフル無視して、私が守ろうとしたのは凌だった。一緒に助かる道を探せればそれがベストだったが、やっぱり私の運動神経じゃ無理だったと思う。
「ふーん、紫乃の中で、俺は1番だったんだ!嬉しいな」
「ひあっ!?」
回想中に突然耳元から聞こえた凌の声に、驚きのあまり変な声が出てしまった。凌の言い草からすれば、もしかして私の回想シーン、筒抜けだったのでは??
「き、聞いてたの!??」
私の心からの叫びに、満面の笑みを浮かべている凌は口を開いた。
「ばっちり聞こえてたよ」
嘘でしょ!!??
ちょっと現実逃避しながら今の状況を説明させてくださいな。
今日は午前授業だったため、食事に飢えていた私たちは、いつメン4人でファミレスに駆け込んだ。
そして、私以外の3人はドリンクバーでなぜか大はしゃぎしていたから、容赦なく置いてきた。
たぶんジュースを5種類くらい混ぜていたのだろう。
他人の宿題を写そうとするところ等が幼い凌や、精神年齢は普通だが、楽しむ時は全力で楽しむなずなはともかく、この中では1番大人であろう西園寺くんまでドリンクバーで遊んでるのは意外だった。
こうして、友人たちを置き去りにしたという悲しい経緯で暇人と化してしまった私はひとり、回想に耽っていたというわけだ。
長々と説明してしまったが、要するに凌が喋ってるように見えても、聞こえてくる声の選択肢は凌以外にもあるわけで。
「その声は西園寺くん…?」
「正解。あ、凌、今度なんか奢ってね」
「水瀬くん、あたしと紫乃の分もよろしく」
「えーっと、これって何の会話?」
凌に何かを3人分奢らせようとしているのだけは分かったけど、それ以外は全く分からない。きっと私がいない間に話が進んでいたのだろう。寂しいものだ。
「凌の馬鹿が、紫乃さんは僕の声を覚えてないってしつこいからさ、ちょっとした賭けをしてたんだよね。ジュースでも奢らせる予定だから楽しみにしてて良いと思うよ」
なんだ、そのふざけた賭けは。少なくとも私、凌くんの倍は記憶力良い自負あるんだけど。
あんま面識ない男子ならともかく、恋人(もう婚約者って言った方がいいのかな?)の親友または親友の恋人であり、いつメンの西園寺くんの声くらいは流石に覚えてますって。
「てか聞いちゃったよ〜、紫乃の独り言。紫乃ってば、ほんっとに水瀬くんのこと大好きだね!!」
あー、やっぱり情報屋が黙ってなかったかー!
家の職業的に噂話を入手しやすいのはもちろんなんだけど、なずな自身も恋バナ好きなのもあるんだよなぁ……。
「え〜、紫乃はそんなに俺の事好きなの?俺も紫乃が本当に好きだよ」
そうだよね。この流れは絶対に凌くんも乗ると思った。
このセリフが日常と化してしまってもなお、確実に私の心を射抜いてくるのは、やっぱり凌くんの無駄に整った美貌のせいだろうか。
なずなの隣に座ってる西園寺くんも、ひたすら視線がうるさいし。
からかってくるなずな、愛を囁いてくる凌、視線だけが騒音な西園寺くん。…これ私、もう逃げ場ないのでは??
よし、更なる追及をされる前に投降しよう。
「あーもう認めればいいんでしょ!?好きですよ!!めっちゃ好き!!!これでいい!??」
私がやけくそで言い切れば、なずなは呆然としていた。
「まさか紫乃がここまで素直になる日が来るとは……」
ん?
「この2人、あと何年かかるかなーって心配してたけど、杞憂だったね。凌、紫乃さん、お幸せにね」
んん??
「あの、これ私、試されてたパターン?」
「そういうことになるね」
西園寺くんが気まずそうに、そう言って笑う。
他に出来ることがなかったとはいえ、やけくそでも自分の気持ちを大声で言うの、めっちゃ恥ずかしかったんですけど。
私のドキドキを返せ!!!…使い方違う気はするけど。
というか、今日の私は何かしらの策にはめられまくっているんだが。
今朝の通学中も、凌にひたすら敬語を使われるという、心底くだらないドッキリを仕掛けられたばかりだし。痛くも痒くもあるわ。
私が心の中で、この1日で私に仕掛けられた全てのドッキリに恨み言を連ねているとはつゆ知らず、なずなはいつも通りの愛らしい表情を、ほんの少しだけ曇らせながら言った。
「実はあたしたちね、ずっと紫乃たちのこと、心配してたの」
人の感情にひどく敏感なはずなのに、変なところが鈍い凌が口を開く。
「心配って?別に俺と紫乃は上手くやってると思うけど」
「凌だけが紫乃さんのことを好きだったら、苦しむのは凌しかいないし良かったんだけど」
「おい、奏太、お前ふざけんなよ」
一瞬でキレた凌が、喧嘩腰で西園寺くんに突っかかる。その姿がライオンみたい──なんて思ってしまったことは墓場まで持っていこうと思う。
本気で怒っているであろう凌ももちろん怖いけど、それを受けて、なんてことないように流す西園寺くんが1番得体が知れなくて怖い。
「紫乃も無自覚ながらも水瀬くんのこと、好きっぽかったから」
「まぁ……、否定はしないわ」
私の言葉に、凌の攻撃がピタリと止まる。少し赤くなった頬を緩める凌に、西園寺くんがここぞとばかりに完全に手加減したカウンターを放っていた。
色々と問題はあるものの、私たちは、本当にいい友達を持ったと改めて思う。
将来、お互いの関係になにか別の名前がついたとしても、形が変わろうとも、ずっとずーっとこの人たちを大切にしていきたいな、と強く思った。



