初恋にはブラックコーヒーを添えて

 凌と正々堂々と(自分で言ってて意味が分からないけど)付き合い始めてから、3週間が経った。 
 私たちの仲は相変わらず非常に良好で、毎朝互いに憎まれ口を叩き合いながら登校している。
 

 高3の秋という、本来なら非常に大事な時期だというのに、凌はあまり勉強していない。そして真面目に勉強した私に、単語テストのヤマを聞くことまでがセットだ。


 ふざけんな、勉強しろよとは思うが、これがうちの高校の良さでもある。

 内部進学率がほぼ100%であるため、心の底から真面目に勉強しようという人は他大学を受験する人か、内部進学でも特待生を目指す人くらいだと思う。


 これは余談だが、既に凌の何百倍も、勉強を頑張っている私は後者だったりする。


 とはいえ。さすがにタダで大学に入れるわけがない。



 2月頃に行われる、一般入試よりは簡単な試験と、高校3年間の成績が一応考慮されるらしい。
 高校での勉強がほとんど私頼りだった凌は、もちろん本番の試験で命運が決まる状況に陥っている。

 
 ちなみに、校内でも成績上位層の西園寺くん&中間層のなずなカップルは私と同じく、既に内部進学がほぼ確だそうだ。

 
 凌以外の全員が勉強に多少余裕がある今、もう迷ってる暇はない。



 いざ、ダブルデート決行だ!!



𓈒𓏸𓈒 ☽ ꙳𓂃 ☕︎ 𓈒𓏸𓈒꙳




 そんなこんなで迎えた、いつメン4人でのダブルデート当日。

 いつか凌の馬鹿と唐突☆初デートした時とは異なり、なずなたちが気を利かせて、決行日の3週間前に事前通告してくれたおかげで、今回はじっくりと服や髪型を選ぶことが出来た。

 ……まぁ、肝心の行き先がボーリングだったから、完全おしゃれ着とかは諦めたけど。
 

 それでも、2日前に言われるのと、3週間前に言われるのとではやっぱり全然違う。ちょうどいい服がなかったら、買いに行くことも出来るし。

 私には、凌くんに前回、直前で誘ったことを反省してもらうために、過去最高の自分で行かなければという、裏ミッションもある。
 

 でも凌は人の服装とかあんま興味ないからなー、彼女の私は別だといいなー、なんてぼんやりと考えながら家を出る。凌がいた。


 ……え?いや、ちょっと意味が分からない。

 こういうのは、近所の公園で長い足を持て余しながらブランコに座って彼女を待つパターンが王道だと思うんだけど。



 私の都合の良い幻想だろうと思い、目を閉じて、再び開く。凌がいた。


「え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜!??」


 嘘でしょ?だって、あの凌だよ??


 毎朝、学校に行く時も、私の家の前で待っててくれて、帰りも私の家まで送ってくれて、なおかつ私が家に入る瞬間まで見届けてくれて、遊びに行く時だっていつもそうしてくれる凌だよ?


 わざわざ私の家まで来てくれる訳が……あるわ。

 寧ろ凌なら、絶対私の家の前で10分前から待っててくれてると思う。そうだった、凌は基本的にはものすんごい良い奴だったわ。マジいつもありがとう。


「何を今さら驚くの?もしかして紫乃ちゃん、メイクに必死で、こんな当たり前だったことも忘れちゃってた?」
「ぐっ…」


 もしかしなくてもそうだよ。

 ただ、このまま素直に頷くのもなんか負けた気がして嫌なので、全力で対抗してみる。


 えーっと、凌を黙らせる方法……。そういえば、初デートの時、私のささいな褒め言葉(と言っても世界の真理)でめちゃくちゃ動揺してたっけ??

 後に知ったことではあるけど、凌はあの頃には既に私を好いてくれてたんだよな………。


 よし、もう一回やってみるか。


「違うよ?凌がいつもよりかっこよくて、本当にキラキラしてて……んむっ」 
「…そんなにストレートで褒められると照れるんだけど」


 凌は私の狙い通りに、撃ち抜かれてくれたようだ。

 よっぽど恥ずかしかったのか、凌には、ふい、と顔を背けてしまったけれど。
 それにしても、まさか私の方が物理的に黙らされるとは思わなかったな〜。これがキスで黙らせるってやつですか。





 ん?キス?
 


「え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜!!???」


 さっきも見たようなリアクションだが、そんなのは今はどうだって良い。

「ぇ」が少し増えたから、全く同じ反応じゃないし。…と心の中で無駄な言い訳をしてみるけど、一気に上がってしまった体温はまだ、下がりそうにない。
 

「そんなに驚いちゃってどうしたの?」
「だ、だ、ふぁ、ふぁ、りょ、りょ、」
「ん〜、『だって、今のファーストキスだよ!??逆になんで凌はそんな平然としてられるの?』って?」 


 動揺のあまり、語彙力が完全になくなってしまったが、凌が完璧に翻訳してくれた。


 句読点まで完璧なんだけど。
 おかしくないか、その能力。


「そ、そうだよ!!これじゃ私、ダブルデートどころじゃないんだけど!?」


 私が必死に訴えかけると、凌は今日も安定の凶器スマイルで、超特大爆弾発言をかました。
  

「大丈夫、それが狙いだから」
「は???????????」
「こうすれば紫乃は今日一日、俺のこと以外考えられなくなるでしょ?俺、結構重いから。紫乃には一瞬でもよそ見しないで欲しい。…ねぇ、嫌いになるなら今のうちだよ」
「…え」

 
 その言葉を理解するまでに、きっちり10秒かかった。
 そして、消化しきるまでに丸々1日かかってしまった。


 ここまで言えば、後はお分かり頂けるだろう。



 その日は、なずなたちと合流しても、ボーリングでカップリング対決をしてボッコボコにされても、ずっとボーッとしてるだけの存在になってしまった。
 
 凌はあれから1週間は私に嫌われてないか不安そうにしていたが、別にこのくらいの独占欲なら大歓迎だ。
 ただ、素直にそう伝えたら面倒なことになりそうなので、嫌いになるわけがないけど、嫌なことがあるなら先に言って欲しかった、とだけ言っておいた。


 そして。
 翌日のなずなとの緊急女子会で私たちは、いつか絶対にre:ダブルデートをしようと固く誓ったのだった。