私を後ろから抱きしめながら、恋人──というか幼馴染 は言った。
「…紫乃はほんとに強がりだね。」
うん、私もそう思うよ。
つい最近まで私は、ずっと、私にとっての凌は幼馴染でしかない、なんて言い張ってたから。
いくら強がっても、どうやっても私は結局、凌が好きなのだ。人としても、異性としても、友達としても、幼馴染としても好きなんだから仕方ない。
凌からほんのりと香る香水の匂いに、真っ赤になった私の耳元に、凌は口元を近づけてきた。
「これくらいで真っ赤になるとかほんと可愛い」
耳にかかる、凌の吐息がこそばゆい。しかもこの幼馴染、顔面がいいだけじゃなくて、声も恐ろしいほどにイケボなのだ。つまり。
好きな人+超絶近距離+耳元吐息×素晴らしいイケボ=限界。もう無理です。
「…りょ、りょう?」
こんなギブアップ状態で、ちゃんと意識を保って、声を発することが出来た私を、誰か褒めて欲しい。
「とにかく…、お前らに紫乃は渡さない……じゃなかった、俺は渡さないから。ってわけでじゃーね」
凌は、女子2人にそっけない口調で告げる。
たぶんこれ、相当怒ってるんじゃないかな。
それから既に限界を迎えた私を見て、嬉しそうに微笑みながら、私の手を繋いで歩き出す。
「ねぇ、紫乃にとって俺は、ほんとにただの幼馴染?俺じゃ紫乃の“特別”にはなれない?」
寂しそうに尋ねるその瞳は私を捉えてる。世界で私だけを見てる。
私が凌を苦しめてるのに。なんだか嬉しくなってしまう。
このまま凌が、ずっと私だけを見て、ずーっと私だけを好きでいてくれたらいいのに。
そう思えば思うほどに苦しくなる。だって、私にとっての凌は大切で特別な人で。それはたぶん、私のことを好きだと言ってくれた凌も同じはずで。
好きだと言ってしまえば楽だけど、まだ私にはその資格がないと思ってしまう。
凌には誰よりも幸せになって欲しいから、私の気持ちが凌に追いつくまでは、この気持ちは隠すと決めた。
確かに凌は、私に、自分のことを好きになって欲しいと言った。
でも、私の曖昧な恋心がもたらす、弱々しい両想いなんて彼には絶対に釣り合うはずがないのだ。
凌は、近くの空き教室に入ると、中から鍵をかけた。
「俺が最近、紫乃は俺のこと、少しは意識してくれてると思うのは気のせい?」
「それは……えーっと…」
気のせいじゃないよ。というか好きだよ。
そう言いたいところだが、必死に我慢する。まだ、凌の10数年には敵わない。
「ねぇ、紫乃。俺が告った時に、紫乃に気持ちを隠すのが苦しかったって言ったの覚えてる?」
「もちろん」
だって私は、あの日辛そうに、それでいて嬉しそうに話してくれた凌の表情を、ずっと忘れられないから。
「俺は、自分が苦しかったことで紫乃も苦しむのは嫌」
「…凌は優しいね」
私が素直に褒めれば、凌は、どうなんだろうね、と苦笑いした。
自分の辛い体験を他の人にはさせたくないと思える人は、本当の本当に優しい人だと、どこかで聞いたことがあったが、違うのだろうか。
そんなことを考えている私を見て、凌は何を思ったのか、私の手を握りながら話してくれた。
私ごと包み込んでくれる、凌のあったかい手のひらは、なんだかお日様みたいだと思った。凌の優しい眼差しにも体温にも、言葉にも全て胸が高鳴って。
大好きだけど、幸せだけど、どこか苦しかった。
「今から言うのは、俺の好きな人にじゃなくて、大事な幼馴染への言葉かな。大好きで大切な紫乃には誰よりも幸せになって欲しいから、余計なことは考えずに、ありのままの紫乃でいて欲しい。思ってることは何でも教えて。紫乃のことなら俺は、全部知りたい。」
いいのかな……好きって言っても。
海よりは心が広い凌は絶対に、私がどんな選択をしたって、それを尊重してくれるだろう。
だからこそ私は、自分の気持ちを隠してきたのだ。
凌なら許してくれると思っていたし、私の気持ちが追いつくまで凌は、待っててくれると確信していた。
凌は一度深呼吸をしてから、口を開いた。
「……もしもの話だけどさ、紫乃が俺のことを1ミリでも好いてくれるなら、俺は宇宙を飛べるくらい嬉しい。ねぇ、紫乃。片想いって苦くて辛いって、言ったよね?もし俺のこと、好きでいてくれるなら、助けてよ」
宇宙は飛べないだろとか、ツッコミどころはあったけれど、凌はやっぱり凌だなと思ってしまった。
人の感情は理解できる癖に、国語の点数は妙に低かったり、細かい表現がちょっと間違っていたり。
凌のそんなところさえも悪くないと思ってしまうのは、惚れた弱みというやつだろうか。恐ろしい。
「紫乃は俺のこと好き?それともまだ好きじゃない?紫乃の気持ちをちゃんと教えて」
「まだ」という表現をしている時点で、凌は私を落とす気満々のようだ。
私は、凌にこの気持ちを伝えていいのだろうか。凌には、ちゃんとした恋心を渡したい。ずっとそう思ってきた。でも。
私の勝手なわがままで凌が苦しむのだけは嫌だ。
もう、どうとでもなれ。
今日も世界一綺麗で、私の大好きな微笑みと、少し表現が間違っている気がする言葉たちに背中を押され、私は半分やけくそで口を開いた。
「…紫乃はほんとに強がりだね。」
うん、私もそう思うよ。
つい最近まで私は、ずっと、私にとっての凌は幼馴染でしかない、なんて言い張ってたから。
いくら強がっても、どうやっても私は結局、凌が好きなのだ。人としても、異性としても、友達としても、幼馴染としても好きなんだから仕方ない。
凌からほんのりと香る香水の匂いに、真っ赤になった私の耳元に、凌は口元を近づけてきた。
「これくらいで真っ赤になるとかほんと可愛い」
耳にかかる、凌の吐息がこそばゆい。しかもこの幼馴染、顔面がいいだけじゃなくて、声も恐ろしいほどにイケボなのだ。つまり。
好きな人+超絶近距離+耳元吐息×素晴らしいイケボ=限界。もう無理です。
「…りょ、りょう?」
こんなギブアップ状態で、ちゃんと意識を保って、声を発することが出来た私を、誰か褒めて欲しい。
「とにかく…、お前らに紫乃は渡さない……じゃなかった、俺は渡さないから。ってわけでじゃーね」
凌は、女子2人にそっけない口調で告げる。
たぶんこれ、相当怒ってるんじゃないかな。
それから既に限界を迎えた私を見て、嬉しそうに微笑みながら、私の手を繋いで歩き出す。
「ねぇ、紫乃にとって俺は、ほんとにただの幼馴染?俺じゃ紫乃の“特別”にはなれない?」
寂しそうに尋ねるその瞳は私を捉えてる。世界で私だけを見てる。
私が凌を苦しめてるのに。なんだか嬉しくなってしまう。
このまま凌が、ずっと私だけを見て、ずーっと私だけを好きでいてくれたらいいのに。
そう思えば思うほどに苦しくなる。だって、私にとっての凌は大切で特別な人で。それはたぶん、私のことを好きだと言ってくれた凌も同じはずで。
好きだと言ってしまえば楽だけど、まだ私にはその資格がないと思ってしまう。
凌には誰よりも幸せになって欲しいから、私の気持ちが凌に追いつくまでは、この気持ちは隠すと決めた。
確かに凌は、私に、自分のことを好きになって欲しいと言った。
でも、私の曖昧な恋心がもたらす、弱々しい両想いなんて彼には絶対に釣り合うはずがないのだ。
凌は、近くの空き教室に入ると、中から鍵をかけた。
「俺が最近、紫乃は俺のこと、少しは意識してくれてると思うのは気のせい?」
「それは……えーっと…」
気のせいじゃないよ。というか好きだよ。
そう言いたいところだが、必死に我慢する。まだ、凌の10数年には敵わない。
「ねぇ、紫乃。俺が告った時に、紫乃に気持ちを隠すのが苦しかったって言ったの覚えてる?」
「もちろん」
だって私は、あの日辛そうに、それでいて嬉しそうに話してくれた凌の表情を、ずっと忘れられないから。
「俺は、自分が苦しかったことで紫乃も苦しむのは嫌」
「…凌は優しいね」
私が素直に褒めれば、凌は、どうなんだろうね、と苦笑いした。
自分の辛い体験を他の人にはさせたくないと思える人は、本当の本当に優しい人だと、どこかで聞いたことがあったが、違うのだろうか。
そんなことを考えている私を見て、凌は何を思ったのか、私の手を握りながら話してくれた。
私ごと包み込んでくれる、凌のあったかい手のひらは、なんだかお日様みたいだと思った。凌の優しい眼差しにも体温にも、言葉にも全て胸が高鳴って。
大好きだけど、幸せだけど、どこか苦しかった。
「今から言うのは、俺の好きな人にじゃなくて、大事な幼馴染への言葉かな。大好きで大切な紫乃には誰よりも幸せになって欲しいから、余計なことは考えずに、ありのままの紫乃でいて欲しい。思ってることは何でも教えて。紫乃のことなら俺は、全部知りたい。」
いいのかな……好きって言っても。
海よりは心が広い凌は絶対に、私がどんな選択をしたって、それを尊重してくれるだろう。
だからこそ私は、自分の気持ちを隠してきたのだ。
凌なら許してくれると思っていたし、私の気持ちが追いつくまで凌は、待っててくれると確信していた。
凌は一度深呼吸をしてから、口を開いた。
「……もしもの話だけどさ、紫乃が俺のことを1ミリでも好いてくれるなら、俺は宇宙を飛べるくらい嬉しい。ねぇ、紫乃。片想いって苦くて辛いって、言ったよね?もし俺のこと、好きでいてくれるなら、助けてよ」
宇宙は飛べないだろとか、ツッコミどころはあったけれど、凌はやっぱり凌だなと思ってしまった。
人の感情は理解できる癖に、国語の点数は妙に低かったり、細かい表現がちょっと間違っていたり。
凌のそんなところさえも悪くないと思ってしまうのは、惚れた弱みというやつだろうか。恐ろしい。
「紫乃は俺のこと好き?それともまだ好きじゃない?紫乃の気持ちをちゃんと教えて」
「まだ」という表現をしている時点で、凌は私を落とす気満々のようだ。
私は、凌にこの気持ちを伝えていいのだろうか。凌には、ちゃんとした恋心を渡したい。ずっとそう思ってきた。でも。
私の勝手なわがままで凌が苦しむのだけは嫌だ。
もう、どうとでもなれ。
今日も世界一綺麗で、私の大好きな微笑みと、少し表現が間違っている気がする言葉たちに背中を押され、私は半分やけくそで口を開いた。



