僕──西園寺奏太は、人形のようだとよく言われる。
中性的(どちらかと言われれば、可愛い部類に入ってしまう)で、我ながら整った顔立ち。基本崩すことのない笑み。
太陽だか月だか分からないが、とにかく何らかの光源くらいに眩しい、親友の隣に立っているだけの存在。
僕の親友こと凌は、クール系・運動神経抜群イケメンという、女子なら一度は憧れるような存在、だそうだ。
個人的にはいくら運動神経が良くても、このレベルの馬鹿だと、ちょっとなぁ…なんて思ってしまう。
そんな彼は、幼馴染の紫乃さんに幼い頃から惚れているらしい。
そして、その紫乃さんこそが、僕の恋のキューピッド的立ち位置を占めていたりする。断言してしまうと、凌から睨まれそうで面倒くさいので、曖昧に言っておく。
ちなみに、僕が紫乃さんには未だに、さん付けを続けている理由はただひとつ。
凌に殺されたくないからだ。
紫乃さんの名前を出した時に、凌の放つオーラがかなり怖い。
それに、どうせ殺されるなら、凌じゃなくてなずなちゃんがいい。…いや、やっぱりなずなちゃんには迷惑をかけたくない。
先程から連呼しているので分かった人も多いとは思うけれど、なずなちゃんは僕の好きな人だ。明るいところも、周りを良く見ていて気が利くところも全部好き。
そんな彼女と僕の出会いは、高校1年の冬に遡る。
𓈒𓏸𓈒 ☽ ꙳𓂃 ☕︎ 𓈒𓏸𓈒꙳
高校に入学して、初めての冬。
けれども、特別なことなんて何ひとつなく、いつも通りに過ぎていく。ただ冷たくて寒いだけ。
季節の中で、冬が1番好きだなんて言った人は、どうせ最愛の人とやらでも隣にいたに違いない。
この高校に入学したのは、バスケがひたすらに強かったから。それ以上でも、それ以下でもない。そうじゃなきゃ、志望校の中でも1番偏差値の低い学校なんてわざわざ選ばないでしょ。
だから僕は、自分の青春は全部バスケに捧げるくらいの気持ちでいた。
プロになりたい訳じゃない。ただ、僕の通っていた中学のバスケ部は弱かったから、強いチームで戦ってみたかったんだと思う。
という訳で僕は今、部活が終わり女子たちに囲まれている。
意味が分からない。
そして、正確に言えば、囲まれているのは僕じゃなくて凌…なんだけど。
「水瀬くん!!西園寺くん!!もし良かったらわたしたちと帰らない〜?」
あ、僕も囲まれてたのか。
この1年で、凌のおまけになることに慣れてしまい、僕は自分の女子人気がないものだと思うようになった。
だって可愛い系の僕は、かっこいいを貫く超絶イケメンな凌には勝てないし。相手が中途半端なイケメンだったら僕にも勝機はあるけど、学校1を争うレベルになれば、どうせ、みんなかっこいい方が好きなんでしょ?
「ごめん、俺、待ってる人がいるから」
え、マジ?コイツ、僕と一緒に帰るんだよね?
僕に何も言ってないとかそういうことある?
「えー!?ねぇ、それ、誰なの??西園寺くんは知ってるんだよね?教えて!!!!」
うん、僕も知りたい。
女子たちは、凌よりも口が軽いのを見越して僕に聞いてきたけど、僕だって、せっかく凌が助け舟を出してくれたのを無駄にするほど口は軽くない。
「僕は、凌の言う“他の人”が誰かまでは聞いてないんだよね。ほんとにごめんね?」
申し訳なさそうに見えるように返す。
僕はこの子たちよりは身長は低いから自然と上目遣いになる。
そのままにこりと微笑めば、女子たちは、うっ、と小さくうめき声をあげて胸を押さえた。
「くっ…これが西園寺くんの上目遣い………」
「噂には聞いていたものの、凄まじい威力…」
うん、今日も絶好調だね、僕。
いつだったか、女子の噂で聞いたことがある。
「上目遣いの状態の西園寺奏太と目を合わせたら、イチコロだ」って。
要するに、上目遣いは僕の切り札だ。
女子たちが自分の持てるもの全てを使って僕らを狙ってくるなら、僕は、僕の持てるもの全てを使って彼女たちを退ける。お互いに手段を選んでいないだけ。
「というわけで皆さん、本日はお引き取り願います」
「は、はいっ!ご馳走様でしたーー!!」
目をキラキラと輝かせた女子たちは大人しく退散してくれた。最初からこうしてくれれば良かったのに。
それにしても──
「はぁーっ、みんな単純だよなぁ…」
「おい奏太、本性出てるぞ」
「えー、僕、声に出しちゃってた?」
「思いっきり声に出てた」
「うわーまじかーー」
凌に指摘されて、慌てて口元を押さえる。
僕は外見通りの中性的な…というか可愛く見えるような言動を日頃から意識的にしている。小学校の頃は、素で生きていたけれど、そんな僕を可愛くないと突き飛ばされたことがあったから。
まぁ…他にも色々とあって、今の表面上の僕が出来上がったという訳だ。
低身長ということもあり、バスケの試合時には舐められて、マークが緩くなるのでありがたいと思うようにしている。
凌と雑談をしながら、その一緒に帰る人とやらを待っていると、向こうの方を通り過ぎようとしていた女子2人がこちらを見てピタリと止まった。片方は楽器っぽいものを背負っているし、吹部か軽音部だと思う。
髪をアップにしている方が、おさげ髪の方にこちら──たぶん凌なんだけど をチラチラ見ながら話しかける。凌にアピールしに行く相談でもしてるのかな。
面倒くさいな。早く帰ってくれないかな……。
そんな僕の心の声に対抗するかのように、アップの子はこちらに笑顔で駆け寄ってきた。うわー、本当に面倒。
どうやって追い払おうか考えていたら、その子はそのまま凌の方に話しかけ始めた。
「凌!!もしかして私のこと、待っててくれた?ごめんね、遅くなって」
そんな訳ねーよ!!誰が約束してない女子を待つんだよ!!
僕がそう言ってしまうより先に、凌が口を開いた。
「紫乃は、俺に今来たとこ、って言って欲しい?」
「うーん、あー、まぁ、そうだね」
「じゃあ、今来たとこ」
は???
僕の中での親友のイメージが大きく崩れ去った瞬間だった。世の中ではこれを、解釈不一致というらしい。
中性的(どちらかと言われれば、可愛い部類に入ってしまう)で、我ながら整った顔立ち。基本崩すことのない笑み。
太陽だか月だか分からないが、とにかく何らかの光源くらいに眩しい、親友の隣に立っているだけの存在。
僕の親友こと凌は、クール系・運動神経抜群イケメンという、女子なら一度は憧れるような存在、だそうだ。
個人的にはいくら運動神経が良くても、このレベルの馬鹿だと、ちょっとなぁ…なんて思ってしまう。
そんな彼は、幼馴染の紫乃さんに幼い頃から惚れているらしい。
そして、その紫乃さんこそが、僕の恋のキューピッド的立ち位置を占めていたりする。断言してしまうと、凌から睨まれそうで面倒くさいので、曖昧に言っておく。
ちなみに、僕が紫乃さんには未だに、さん付けを続けている理由はただひとつ。
凌に殺されたくないからだ。
紫乃さんの名前を出した時に、凌の放つオーラがかなり怖い。
それに、どうせ殺されるなら、凌じゃなくてなずなちゃんがいい。…いや、やっぱりなずなちゃんには迷惑をかけたくない。
先程から連呼しているので分かった人も多いとは思うけれど、なずなちゃんは僕の好きな人だ。明るいところも、周りを良く見ていて気が利くところも全部好き。
そんな彼女と僕の出会いは、高校1年の冬に遡る。
𓈒𓏸𓈒 ☽ ꙳𓂃 ☕︎ 𓈒𓏸𓈒꙳
高校に入学して、初めての冬。
けれども、特別なことなんて何ひとつなく、いつも通りに過ぎていく。ただ冷たくて寒いだけ。
季節の中で、冬が1番好きだなんて言った人は、どうせ最愛の人とやらでも隣にいたに違いない。
この高校に入学したのは、バスケがひたすらに強かったから。それ以上でも、それ以下でもない。そうじゃなきゃ、志望校の中でも1番偏差値の低い学校なんてわざわざ選ばないでしょ。
だから僕は、自分の青春は全部バスケに捧げるくらいの気持ちでいた。
プロになりたい訳じゃない。ただ、僕の通っていた中学のバスケ部は弱かったから、強いチームで戦ってみたかったんだと思う。
という訳で僕は今、部活が終わり女子たちに囲まれている。
意味が分からない。
そして、正確に言えば、囲まれているのは僕じゃなくて凌…なんだけど。
「水瀬くん!!西園寺くん!!もし良かったらわたしたちと帰らない〜?」
あ、僕も囲まれてたのか。
この1年で、凌のおまけになることに慣れてしまい、僕は自分の女子人気がないものだと思うようになった。
だって可愛い系の僕は、かっこいいを貫く超絶イケメンな凌には勝てないし。相手が中途半端なイケメンだったら僕にも勝機はあるけど、学校1を争うレベルになれば、どうせ、みんなかっこいい方が好きなんでしょ?
「ごめん、俺、待ってる人がいるから」
え、マジ?コイツ、僕と一緒に帰るんだよね?
僕に何も言ってないとかそういうことある?
「えー!?ねぇ、それ、誰なの??西園寺くんは知ってるんだよね?教えて!!!!」
うん、僕も知りたい。
女子たちは、凌よりも口が軽いのを見越して僕に聞いてきたけど、僕だって、せっかく凌が助け舟を出してくれたのを無駄にするほど口は軽くない。
「僕は、凌の言う“他の人”が誰かまでは聞いてないんだよね。ほんとにごめんね?」
申し訳なさそうに見えるように返す。
僕はこの子たちよりは身長は低いから自然と上目遣いになる。
そのままにこりと微笑めば、女子たちは、うっ、と小さくうめき声をあげて胸を押さえた。
「くっ…これが西園寺くんの上目遣い………」
「噂には聞いていたものの、凄まじい威力…」
うん、今日も絶好調だね、僕。
いつだったか、女子の噂で聞いたことがある。
「上目遣いの状態の西園寺奏太と目を合わせたら、イチコロだ」って。
要するに、上目遣いは僕の切り札だ。
女子たちが自分の持てるもの全てを使って僕らを狙ってくるなら、僕は、僕の持てるもの全てを使って彼女たちを退ける。お互いに手段を選んでいないだけ。
「というわけで皆さん、本日はお引き取り願います」
「は、はいっ!ご馳走様でしたーー!!」
目をキラキラと輝かせた女子たちは大人しく退散してくれた。最初からこうしてくれれば良かったのに。
それにしても──
「はぁーっ、みんな単純だよなぁ…」
「おい奏太、本性出てるぞ」
「えー、僕、声に出しちゃってた?」
「思いっきり声に出てた」
「うわーまじかーー」
凌に指摘されて、慌てて口元を押さえる。
僕は外見通りの中性的な…というか可愛く見えるような言動を日頃から意識的にしている。小学校の頃は、素で生きていたけれど、そんな僕を可愛くないと突き飛ばされたことがあったから。
まぁ…他にも色々とあって、今の表面上の僕が出来上がったという訳だ。
低身長ということもあり、バスケの試合時には舐められて、マークが緩くなるのでありがたいと思うようにしている。
凌と雑談をしながら、その一緒に帰る人とやらを待っていると、向こうの方を通り過ぎようとしていた女子2人がこちらを見てピタリと止まった。片方は楽器っぽいものを背負っているし、吹部か軽音部だと思う。
髪をアップにしている方が、おさげ髪の方にこちら──たぶん凌なんだけど をチラチラ見ながら話しかける。凌にアピールしに行く相談でもしてるのかな。
面倒くさいな。早く帰ってくれないかな……。
そんな僕の心の声に対抗するかのように、アップの子はこちらに笑顔で駆け寄ってきた。うわー、本当に面倒。
どうやって追い払おうか考えていたら、その子はそのまま凌の方に話しかけ始めた。
「凌!!もしかして私のこと、待っててくれた?ごめんね、遅くなって」
そんな訳ねーよ!!誰が約束してない女子を待つんだよ!!
僕がそう言ってしまうより先に、凌が口を開いた。
「紫乃は、俺に今来たとこ、って言って欲しい?」
「うーん、あー、まぁ、そうだね」
「じゃあ、今来たとこ」
は???
僕の中での親友のイメージが大きく崩れ去った瞬間だった。世の中ではこれを、解釈不一致というらしい。



