初恋にはブラックコーヒーを添えて

『私は凌が大切だけど、この感情は“好き”とは違うと思ってる』
『…そっか。俺は紫乃のこと、好きなのに』
『…っ!?』
 

 凌に、

 告られた。
 

 凌は、私のことが好き…?


 …いやいやいや、ないないない



 だってさぁ!私を好きになる要素ってあります!?

 なくない!?自分で言ってて虚しくなるけれども!


 私の長所といえば、人より少し勉強が出来ることで。でも、そこに惚れるか?…否。
 

 
 じゃあ、凌は一体私のどこがいいんだ…?



「──の、」



 私の顔が好みとか?



 いや、でも凌くんは万人受け確約の国宝級の美貌をお持ちですよね。周りにいくらでも美少女集まってくるよね!??

 そんな中、幼馴染ポジを占める私は、もちろん平凡な顔面。美少女じゃなくて悪かったな。



 てか、そもそも凌は人を顔面で選り好みするような奴じゃないし。



 凌のことは信頼してるはずなのに、さっきの凌の言葉は何故か、しっくりこなかった。
 まさかすぎる出来事で、どこか他人事のように感じているのだと思う。


 …でも、しっくりはこないけど、嘘だとしても嬉しかった。

 
「紫乃っ!」



 名前を呼ばれて、顔を上げると、そこにはなずながいた。


 なずなからほんのりと香るシャンプーの匂いは水瀬家のもので、凌と同じ香りがする。私の髪からもその香りがして、やっぱりどこか落ち着かない。


 さっき凌に抱きしめてられた時のことを思い出してしまって、ずっとドキドキしている。


「紫乃、早く!先に女子会始めちゃうよ!?」
「ふっふっふ、甘いね、なずなちゃん。女子会は1人では成立しないぞ?」


 私は、全力で悪人顔をつくって、なずなに告げる。

 するとなずなは、悲劇のヒロインがよくやるような表情をつくった。


 
「そんなっ……!!」
「私も参加させていただこうか」


 なずなとの女子会は、かなり特殊である。

 開始前に謎の演技合戦が始まるのだ。もちろん、事前の打ち合わせはなしである。

 なずな曰く、ここで結束力を高めることで“ここだけの話”が聞ける確率が上がるという。意味が分からない。

 
「もうっ、仕方ありませんね。…てか人を待たせておいて偉そうな」
「ごめんて」
「もしかして、水瀬くんのこと考えてた?」
「…否定は出来ない」


 ううっ、なずな鋭い…。
 凌と付き合ってることも公表してないんだけど、なずなのことだし、全部知ってるんだろうなぁ……。

 
「紫乃ってあたしに話してないことあるよね?」
「えっと…」

 

 すーるーどーいーー!!!


 そしてなずなの暗黒微笑!!

 なんかちょっと余裕そうなんですけど!!
 もしかしなくても西園寺くんと上手く行った感じ!??


「紫乃と水瀬くんって付き合ってるよね?あたし、全部知ってるからね!??」
「あ、うん…今まで言えてなくてごめんなさい……」
「いーの!その代わり、全部聞かせてよね?」


 うん、やっぱりこうなりますよね。

 私も罪悪感はあるので、お話しますとも。えぇ。アモールさんとの契約以外のことだけど。

 
「も、もちろんです…」
「やった!!それで?水瀬くんとはどんな感じ?」
「どんな感じ、って言われても」
「じゃあ、告白はどっちから?シチュエーションも詳しく聞きたい!!」



 早速1番の難題。適当に誤魔化すという選択肢もあったけど、なずな相手に余計な嘘は吐きたくないし、正直に話すことにした。

 
「あの、ね、なずな。私は凌が好きで付き合ったんじゃないの」
「え…?どういうこと…?」


 契約のことは、アモールさんのことにも触れる必要があるから言えない。だから、出来るだけ遠回しに真実を伝えなきゃ…。

 
「恋人が必要だっただけ、なの。凌でも誰でも良かった」
「紫乃は水瀬くんの事好きじゃないって事…?」
「…そうだと思う」
「水瀬くんはそれでいいって言ったの?」
「うん」


 だって、提案してきたの凌だし。

 こっちに有利すぎる条件ではあったけど。



 あれは、凌の優しさだったのか、同情だったのか、それとも──。

 
「でも、さっき、好き、って言われちゃったの…」
「まぁ、そうなるよね」
「え?」
「誰でも分かるよ、水瀬くんが紫乃のこと好きなのは」


 何を言っているのだろうか。


 誰よりも近くにいた私ですら気づけなかった凌の感情。それが、周りからは見え見えだったと言うのか。



「え…、そ、そうなの!?私、全然知らなかった…」
「それはもう。水瀬くん、紫乃を見つけたらすごく幸せそうに笑うし、すごくすごく優しい目で紫乃のこと見てるし、周りの人との対応の温度差激しいし」

「ちょ、ちょっと待った」
「どうしたの?」
「そ、そんなに温度差あるの…?」



 凌は、時々、恋愛小説に出てくるような温度差イケメンなのだろうか。
 あの、ほら、ヒロインがいない時は常にブリザード放ってるような。


 凌に限ってそんなことはないと思いたい。

 小さい頃から、女子に嫌がらせしたら100倍で返ってくる、とあんなに言っておいたのに。
 というか、馬鹿と言いたくなるほどの優しさが凌の取り柄だと言うのに。

 
 なずなが周囲と私への対応の温度差を述べるということは、なずなもブリザード被害者なのだろうか。


「ふふ、冗談冗談」
「よ、良かったぁ…」
「これも奏太くんが、水瀬くんを励ますために言ってたことだから」


 安心した。
 凌は、ブリザードイケメンじゃなかった。


 あとは今回の嘘の提供元である、西園寺くんが氷漬けにされないことを願うばかりだ。


 西園寺くんのひとことが、凌を励ますどころか、逆にダメージを与えているであろうことには気づかない振りをしておこう。というか、凌を励ますとは一体。
 

 忘れていたが、西園寺くんと言えば。

 
「次はなずなの番だよ?」
「えっと、あの、紫乃、あたし」


 明らかに動揺しているなずな、超可愛い。
 これは西園寺くんも惚れるわけだ。


「もしかして、さっき西園寺くんから告白された?」
「なっ、なんでそれを」

「それで何て返事したの?」
「……あたしも好き、って」


 わお。


 まぁ、予想通りではあったけど。


「おめでとうーー!!良かったね、なずな!!!ずっと西園寺くんのこと好きだったもんね!!!!」


 なんて大声でお祝いすれば、


「ちょっ、紫乃!!奏太くんたちに聞こえたらどうするの!!」


 真っ赤になったなずなにポカポカ殴られ。全く痛くない。なずな超可愛い。



 恋バナ特有の高揚感を残して、私たちの夜は更けていったのであった。