「っっ、」 その、何も映さない茉莉の瞳に、ぞっとして、自分の背中が粟立つ。 言い知れぬ恐怖感に私は、その場に固まった。 「ーーーーねぇ、莉茉?」 こてん、と茉莉が首を横に傾ける。 「あんたは、狡いよ。」 「え?」 「だって、あの家から解放されるんだもん。」 ふっと、口角を上げ、儚い笑みを浮かべた茉莉に、私は目を見開く。 「………………っ、茉莉?」 ーーーーーそんな表情をした茉莉を、私は初めて見たかも知れない。