「沙織……?」
あたしの涙に気付いた柊くんが、望遠鏡から外した視線であたしを捕らえる。
心配そうな表情を浮かべて近付こうとした柊くんに……あたしは口を開く。
……すべてのムカムカを吐き出すように。
「あたしっ……好きな人が出来た……」
……――― それは、今までで一番出来の悪い嘘。
だけど……それ以外にこの気持ちから逃げられる方法が見つからなかった。
隠し続けた気持ちは、とてもキレイなものだとは思えなくて。
そのまま柊くんの前に晒す(さらす)なんて出来ないほどに、汚れてしまっていて。
『好き』
ただそれだけだった想いは、すっかり形を変えてしまっていた。
全部が全部嫌で……リセットする以外に、道が見つからなかった。
「……沙織」
「だからっ……もう来ないから」
柊くんの言葉を遮るようにそれだけ言って、天文台を出る。
突き刺すような冷たい空気に突然放り出された身体は、不思議とそれを感じなかった。
走り出した足を交互に出していると、やっとその動きの鈍さにそれを感じる程度。
……はたしてそれが、外気のせいなのか、気持ちのせいなのかは分からないけど。
「…っ……ふ…」
涙がどんどん溢れ出す。
柊くんの気持ちを知る事から逃げ続けたあたしは
関係が崩れる事から逃げ続けてきたあたしは
結局最後まで逃げるしか出来なくて。
伝えるには大きくなりすぎてしまった気持ちが、胸の中で弾けたように身体中が痛くて、涙が止まらない。
嫉妬
臆病
よわ虫
わがまま
嫌悪感
『好き』の感情に隠したたくさんの汚い気持ちが、あたしを責めてるみたいに、身体中で蠢く(うごめく)。
ただ好きだっただけなのに……あたしは一体どこで間違ったんだろう……
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