混乱極まる中、いつの間にか絵本の中のお姫様みたいなピンクのふりふりドレスに着替えさせられ、髪の毛は中世フランス貴族みたいにうず高く結い上げられて、妙にけばけばしい化粧をさせられてそこにいた。
信じられない。鏡の中の私は燃えるような赤い髪をしている美麗なお嬢様。だれ、これ? いや……、本当だれなの、これ?
目の前ではでっぷりとした禿げ頭の貴族のおじさんと、同じくツムツム頭に結い上げられた貴族のおばさんがおいおい泣いている……。
「医者の話ではこのままだめないかもしれないと言われていたのだぞ……っ、ああっ、よかった、よかった!」
「ええ、目が覚めてよかったわ……っ! 本当に心配で心配で夜も眠れなかったのよ……っ、本当に、本当によかった……」
えーと……。
ちょっと、待って、話を整理していいかな……。
あのー、ひょっとすると、ベアトリスって、私のこと……?
「ベアトリス、どうした?」
「まだ本調子じゃないようですわ。いいのよ、ベアトリス、しばらくゆっくりなさいな」
「お嬢様、お嬢様のお好きなものを今準備させてございます」
ぽかんとしていたら、部屋に三台もカートが運ばれてきた。そのカートのどれにもケーキやお菓子がてんこ盛り。
今度は食べる方のスコーン、クッキー、マカロン、フィナンシェ、備え付けにはたっぷりとクロテッドクリームに数種類のジャム。
色とりどりのプチフール、トリプル重ねのスポンジケーキ。
チョコレートボンボンの詰まった箱はもはやピラミッド。
なにこれ……。
これが、このベアトリスお嬢様の常食ってわけ……? 冗談でしょ?



