一応下げた頭を上げると、エバンがぎょっとしたように目を向いていた。
変な反応……。
それより気になるのは、ヘティの噂をすればっていう言葉なんだけど。
うーん。この人とベアトリスは一年の婚約以外になにかあるの?
「……ど、どういう風の吹き回しだ?」
「え?」
「お前、そのようなまともな口の利き方を知っていたのか……」
え、えー……? それあなたが言いますか。
居丈高な態度に、婚約者相手とはいえ、お前呼ばわり。
この世界ではまさかこれがデフォルトなの? ……だとしても、少なくとも私にはあなたのほうがまともじゃないように見えるよ?
「その~、私、目が覚めてから記憶が……。ええと……」
まさかここで自分は楠本容子だなんて言ったらまずいよね……?
助けを求めるようにヘティを見ると、僭越ながらと説明を代わってくれた。
「ベアトリスお嬢様は、王宮の大階段を落ちてお倒れになる以前のことを覚えていらっしゃらないのでございます」
「なに……っ!?」
エバンがあからさまに眉をしかめてねめつけてきた。
「お、覚えていないだと……? なにをばかな」
「誠でございます、エバン様」
――ガタンッ!
突然、エバンが跳ねるように椅子から立ち上がった。
その顔にはっきりとした侮蔑と怒りが浮かんでいる。
えっ、なに……、なにがあったの、このふたり?



