再び目が覚めたというのに、悪夢はぜんっぜん覚めていなかった。
昨日は混乱のままに、自分は日本から来た楠本容子で、CRY BABYのライブが二か月後にあるから今すぐ帰りたい、帰してくれ、いや帰せ、帰せ人さらい、と大騒ぎしたのだ。
けれど、この家の主らしきヴィリーバ子爵夫妻も侍女ヘティら使用人たちも全く信じてくれなかった。
頭を強く打ったせいで、記憶が混乱していると決めつけられ、薬を打たれ、ベッドに押し込まれた。
……とにかく、暴れるだけではなにも解決しないという事だけはわかった。
最悪、貴族の体裁とやらを気にして、部屋から出られなくなるかもしれない。
早く日本に帰るためにも、それだけは避けなきゃ……!
「お嬢様、お食事ができたようでございます」
夫妻が出て行ったあと間もなく、食事が運び込まれてきた。
クリームたっぷりのパンケーキ、クリームがたっぷりのコーヒーカップ、クリームがたっぷりのフルーツボウル。
いやだから、なにこれ? どういう食べ物ですか?
この家の人たち、私のことお乳の足りない仔牛かなんかだと思ってる?



