耽美なる箱庭



 隣の腐れ縁の男が、息を飲んで瞠目した。

 清々しい冬の空気が俺たちの間を通り抜ける。自分のした選択に後悔はない。


「数学が得意な人間がいたとして、必ずしも数学者になる必要はないだろ。それと同じことだ。誘導したとはいえ、乃々は最後に自分で選んだ。俺のことを」

「……、」

「才能があるからとその道に進ませるのは、身勝手な押しつけと変わらない」


 乃々は可能性を秘めている。

 だけど、他人からの強要で、才能を有効に活用したとて、本人が幸せになれるかどうかはわからない。

 人に傷つけられてきた乃々が、もし芸能界などに足を踏み入れれば、多数の理不尽な悪意に晒されて精神を消耗するのは目に見えている。

 その時、俺たちは責任を取れるか?


「千佳ってまじで性格悪いね。腹立つ」

「お前には負けるけどな」

「殴りた〜」

「好きにしろ。利子つけて返してやる」

「反撃する気満々じゃん」


 上半身を少し後ろに倒し、脱力しながら上空に視線を向けた麗は、呆れたように笑った。

 これでも中学からの付き合いだ。お互いの譲れないものをよく理解している。そうじゃなければ、とっくに消えている縁。俺と麗は本質が似ている。