耽美なる箱庭



 俺の唇にあざとく乃々が近づいてくるから、数秒だけ濃厚な戯れをしてやれば「珈琲の味する」と顔を顰められた。


「にが〜い」

「珈琲飲んでたからな、見ればわかるだろ」

「千佳くんの味がすると思ったのに」

「……(理性理性理性)」


 乃々に気づかれないよう奥歯を噛み締める。

 全部、計算でやってると言われた方が遥かにいい。発言の威力が核兵器並だ。俺の心臓と理性がもたない。

 今日に限って時計の針の歩みが遅く感じられ、俺は頭痛がしてくるこめかみを親指で押さえた。


「……あっ、もう向かう時間?」

「そうだな」

「麗くんに、わたしも会いたかったな〜……」

「だめ」

「千佳くんのケチ」


 俺以外の男に会う必要はない。

 むくれる乃々に「俺で我慢しろ」と言い、空気を含んで丸くなった頬を片手で鷲掴みにした。このやわすぎる頬っぺはなんなんだ。


「俺だって、お前の誕生日前日に野郎の顔なんて見たくねぇんだから。いい子に待ってろよ」

「……はぁ〜い。麗くんによろしく」


 玄関まで見送りに来た乃々の額にキスをして、俺は箱庭を出た。