耽美なる箱庭


 
 精神的に打ちのめされて、狭い個室で数分立ち往生する。気づいたときには誰もいなくて、スマホの通知欄に千佳くんの名前があった。


〈具合悪い? 出てこれるか?〉


 また、心配させちゃった。

 わたしは〈疲れただけ、大丈夫〉と返し、気合いを入れるためにも、頬をぱちんと両手で挟んでから、千佳くんたちのところに戻る。

 戻るまでの道のりはフードを被り、襖を開けて自分の席に視線を向けると、──千佳くんがいない。


「おかえり、ののちゃん。疲れた?」

「少しだけ。麗くん、千佳くんって……」


 手招きする麗くんに近寄って、千佳くんの所在を聞こうとしたが、こういうときだけ勘が冴える。


「(あ、SEの女の人もいない……)」


 いま、ふたりだけで、いるのかな。

 告白されてたらどうしよう。千佳くん、なんて返事するんだろう。戻ってきたら付き合ってたりして。

 ぐるぐると悪い結果ばかりを脳みそが想像した。

 そんな陰気臭いわたしに、機嫌上戸になった人たちが話しかけてくる。


「ののさんって〜、ほんとかわいいっすよね〜」

「えっ、あ、どうも……」

「わかる〜! 本物の美少女って感じ!」

「いや、そんな……」

「藺月さんが過保護になるのもわかるっていうか、最近はここらも治安悪いし」


 会話のスピードがはやい〜!

 わたしは褒め言葉を曖昧に躱しつつ、治安が悪いという言葉に少しドキリとした。