一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

「娘達、静かにしなさい。
ここは、軍師である我が一族がお引き受けします。数々の荒波をかき分けてここまで辿り着いた根性が、我が一族にはあります。新しい国へ行ったとしても、友好の為、この万世国発展のために糧となる所存でございます。」

軍師 楚 光源(そ こうげん)のその言葉で、広間の中は静まり返る。

「では、光源殿に一任します。
あなたの采配には感服するものがありました。どうか、お元気で。
こちらとしても離縁にあたってそれ相当の金銭を用意させて頂きます。」
晴明がそう締めくくって話し合いは終わった。

席を立ち、晴明はそっと肩を撫で下ろす。

「陛下、鮮やかな采配さすがでした。」   
一緒に立ち会った李生もまた一部始終を見届けた。

「さすがに悪の根源達であろうとも、この先を思えば胸が痛いな。」
晴明の本音が見え隠れする。
素の彼は意外と優しく、繊細な面も持ち合わせている事を李生はよく知っている。

「陛下、胃でも痛いのですか?
先程から何度か胸元を気にされておられますが…。」
李生にそう言われて気付く。

胃が痛い訳ではない。
ただ無意識に香蘭の御守りに触っていただけだ。そんなにも触れていたのかと、自覚が無かっただけに驚く。

「いや、なんとも無い。ただ、さすがに少し疲れたな。」
気が付けば、香蘭がいなくなってから3週間が経っていた。後、1週間ほどで彼女達、踊り子の一行はこの都に帰って来る。

後、1週間…されど1週間…。

「何とかして早く香蘭に再会出来る手は無いのか?」
そうボヤく晴明は珍しい。

「1週間は待てないと申されますか?」
李生の問いかけに、

「早めに合流は不可能かと聞いている。」
晴明の強い眼差しは苛立ちを隠さない。

このような時は、どうにかしろとのお達しだと心得ている李生だから、
「分かりました。出来る限りの公務の調整と何かしらの対応を迅速に致します。」

この3週間、香の国の事で尽力しずっと走り続けて来た。その多忙な日々も第一段階の目処が着いた。

まだ計画は始まったばかり、何よりも陛下には走り続けてもらわなくてはならない。ここで少し休息を与えてあげなくてはと、李生ははやる気持ちを抑え、早急に予定の調整に入る。