一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

慌ただしく情勢が変わる1日だった。

後宮の自室に戻り晴明はやっと一息付く。
出来れば香蘭の残り香のある別邸に帰りたいものだが…。

客人を置いて別邸に帰るのは、いささか頂けないと李生に諭され、仕方無しに後宮に残る事にした。

1人になれば思い出すのは香蘭の事。

今頃、どこで何をしているのか…。

窓際に腰掛け春の夜空を仰ぎ見る。

今夜は空気が澄んでいて、満月に近い月が夜空をひっそりと照らしている。

この月を彼女も見ているだろうか…。
そう思うと自然に胸元に手を伸ばしていた。

実は別れ際、香蘭がわざわざ馬車から降りて晴明に渡して行った物がある。

『これは私が捨てられた時に、唯一身に付けていた大事なお守りです。晴明様にお預けします。どうかご無事でまた、お会い出来る日を楽しみにしております。』

そう言って託された大切なお守り…それは、翡翠で作られたペンダントだった。

普段から肌身離さず付けていたらしいから、それに触れるだけで彼女の温もりと、花が咲き誇るような笑顔が思い出される。

かなり古い物と見受けられるが、翡翠の深緑の輝きは失っていない。

綺麗だなと、思わず月に照らして見る。

すると月明かりに透かされた翡翠の中に、何か刻印の様なものが浮かび上がる。
金色に輝くその刻印は、鷹が空に飛び立つような羽を広げた絵柄模様だった。

どこかで見た事があるような…

晴明はしばらく考え込むが、それをどこで見たのか思い出せずにいた。