一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

「ようこそ万世国へ。」
この時ばかりは冷酷な皇帝を演じる晴明も、笑みを讃えて迎入れる。

「初めまして。私、香の国の第一王子 花柳と申します。お見知り置きのほど。」
王子自ら名乗り出て、爽やかに握手を求められる。

「始めまして、晴明と申します。」
あえて皇帝を名乗らないのは、若くして頂点に立つ晴明の心配りだ。

年上の交渉相手にとって、年下の若造に過ぎない男が皇帝を名乗るのは、面白くない筈だという考えからだ。

「栄西殿も、秦嶺殿もお変わりなく。」
お互い握手を交わしそれぞれの席に腰を下す。

どうやら、うちの皇帝陛下も通常運転に戻ってくれたようで、人知れず李生はホッと息を吐く。

「本日は遥々いらっしゃいました。
香の国との親善を祈り、我が国でも屈指の料理人を呼んでの会食になります。どうか硬い話は後ほどに、美味しい料理を堪能して下さい。」

竜徹の朗らかな声で会食は始まり、表向きは穏やかな雰囲気となる。

「それにしても、聖国の皇太子 景勝(けいしょう)殿の言う通りだ。万世国の料理はどれも美味で、最高だと聞いておりましたので、楽しみにしておりました。」

香の国の皇太子 花柳が晴明に気さくに話しかけて来る。
「景勝をご存知ですか?」

「ええ、ここに来る前に聖国にも立ち寄って来ました。彼の悪戯好きには困ったものです。
まだ、2回ほどしか面識が無い私に対して、音が鳴る座布団というものを仕込んでまして…ハハハッ本当に愉快な方ですよ。
聞けば皇帝陛下と旧知の仲だと伺いまして、あなたに興味が湧きました。」
爽やかに笑いながら花柳は話す。

「学生時分に聖国に留学をしておりまして、3年間景勝とは寮が同じでやたら絡まれましたが…悪友としか言えません。」

「貴方にとっては悪友かもしれませんが、景勝殿はあなたの事を親友だと高く評価されておられましたよ。どんな悪戯をしても、怒る事無くシラっと流す男だと。懐の深さに感服すると言っておられました。」

晴明にとって景勝の笑えない悪戯には、ほとほと慣れているから、呆れて怒る気にもなれないだけなのだが…。

「3年間毎日あの男の悪戯に付き合ってましたから、単なる慣れです。」
苦笑いを浮かべ晴明は言う。

「ああ、そういえば先々週に婚約の儀をされたとか、遅ばせながらおめでとう御座います。
その席でも景勝殿が悪戯をされたとか?」

一度アイツの父親に抗議文を送るべきだなと、晴明は確信しながら、

「全くもって笑えない悪戯でしたが…。」
と、渋い顔をする。

「お相手のお嬢様はとても美しく可愛らしい方だったとお聞きしました。羨ましがってましたよ。一度お会いしてみたいものだ。」

媚薬の話しまではしていないようで、一応それなりに場はわきまえているんだなと晴明は思いながら、

「彼女はとても内気な性格の為、あまり表舞台には出すつもりはないのです。」
サラッとそう述べ香蘭をひた隠す。

香蘭には異性を魅了する不思議な力があるから、これ以上敵を増やしたくないと、晴明は本気で思っているのだ。

「それはそれは、とても大事にされていると見られる。私にも側室は居ますが、それほど想える相手はなかなか現れないんですよね。羨ましい。」

「…景勝がきっと大袈裟に話したのでしょうけど、他の側室達と何ら変わりないです。」
敵国にこれ以上香蘭が特別視されては危険だと、平然を装って木は森に隠し、咄嗟に話しを変える事にする。