一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

昼前に到着した香の国の親善大使一行は、恰幅の良い大使を先頭に5名ほどだった。

事前に聞いていた話しでは4名だったのだが…?ここで李生は一度首を傾げる。

大使の直ぐ後ろには、一度お目にかかった事のある軍白髪の軍人だ。

その後ろを上等な衣に身を包んだ20代くらいの若い男が続く。その両サイドには彼を護衛するように、2人の屈強な軍服姿の男達が並んで歩いて来る。

香の国と万世国との停戦は、20年前から続いている。

停戦後、香の国内でクーデターが起き、前国王はへき地へと追いやられ最後は惨殺されたと聞く。

その後内戦が続き、5年前に新しい国王が国をまとめ、やっと国内に平和をもたらしたらしい。

晴明が率いる万世国も父の代で内戦が勃発、その父が病に倒れ、次は跡目争いと続き、戦ばかりの日々だった。

お互い内政が整わず、晴明が皇帝になった3年前にやっと和平交渉が始まったところだ。

今や恒例となった半年に一度の親睦会だが、未だ和平への道のりは遠く、お互い引くに引けない条約内容を、繰り返し訴え続けているという微妙な間柄だ。

3年の間には、香の国の姫から正妃をという声も上がったのだが、皇帝晴明がにのごの言わせず即却下した為その案も不発に消えた。

おのおのの思惑はひた隠し、玄関先で左大臣の竜徹(りゅうてつ)と皇帝の側近である李生がにこやかに香の国からの御一行出迎える。

竜徹は皇帝である晴明にとって、親友であり最も信頼する家臣の1人である。晴明よりも10歳上で兄のような存在でもあるから、交渉ごとの取っ掛かりは必ず彼に託すのが決まりだ。

「ようこそ。親善大使 栄西(えいさい)殿、そして軍部指揮官の秦嶺(しんりょう)殿に、そちらは…?お初にお目にかかります。」

竜徹の朗らかな声が玄関先にこだまする。

「こちらは、我が国の第一王子であらせられます。」
親善大使の栄西から声高々に紹介される。

「初めまして。第一王子の花柳(かりゅう)と申します。」
爽やかを絵に描いたような笑顔で挨拶を交わす。

「ようこそおいで下さいました。
ささ、我が皇帝陛下がお待ちです、どうぞこちらに。」

滞りなく竜徹と李生の巧みな話術によって、敵国の親善大使団を、皇帝晴明の待つ貴賓室へと通す。