宮殿には今日の婚約の儀を祝う為、急ぎ駆けつけてくれた信頼すべき家臣や、親しくしている隣国の皇太子、付き合いのある商人や使用人達まで、分け隔てなく招待されていた。
香蘭側の知り合いである踊り子仲間達は、この事を知られたら今後の旅に差し支えると、香蘭たっての希望で秘密にされている。世間的にはまだ名を明かされる事はない。
それは何故か、何者かに命を狙われている香蘭を思い守る為でもある。
「…お待たせして、申し訳ありません。」
香蘭が陛下が待つ控えの間に到着した時には、既に息が少し上がってしまうくらいの運動量になっていた。
後宮から宮殿は片道でも10分ほどかかる広さだ。
それでも陛下に失礼がないよう、両膝を付き頭を下げて挨拶の形をとる。
軽く微笑んだ陛下が立ち上がり、香蘭の手に触れ立ち上がらせる。
「待つという事を楽しんでいたから気にしなくて良い。…とりあえず、彼女に水分を。」
皇帝陛下からの指示は絶対だ。
使用人達はその一言で一斉に動き出し、バタバタとお茶やら菓子やらが運ばれて来る。
「…ありがとう、ございます。」
陛下が誘導される長椅子に座り、お茶を飲んでホッと一息付く事が出来た。
その間に女官達が香蘭の衣装の乱れを整え、化粧を直し元の形に整えてくれる。
「2人にしてくれ。」
陛下の指示で、部屋にいた全ての者がサササッと機敏に動き、頭を下げて去って行く。
「香蘭…顔を見せて。
大丈夫か?あの老害に何を言われたとしても気にしなくていいんだ。聞くに値しない価値の無い話しばかりなのだから。」
「…⁉︎⁉︎⁉︎」
陛下が陛下で有るまじき言葉を吐くので、思わず香蘭は目を見開いて固まる。その顔を隠していた薄布を陛下が手で払い除ける。
目が合って、間近で優しい眼差しで見つめられて、ドキンと心が弾む。
サラッと頬に触れられると、蕩けてしまいそうなほど甘美な蜜に誘われる。
ここで泣いてしまえば、きっと陛下はこの儀式をすぐさま取りやめてしまわれるだろうか…。
ここまでの重圧に堪え兼ねて、香蘭の頭の片隅に逃げ出してしまいたいと思う気持ちが一瞬掠める。
だけど何も言わずに推し止まり、ぎゅっと唇を噛みしめ微笑みを返す。
その唇にそっと陛下は口付けをする。
初めての口付けがこんな場だなんて…思ってもいなかったから香蘭は固まり瞬きを繰り返していた。
お陰で先程まで打ちひしがれて弱った心が息を吹き返す。
「そなたにはこんな堅苦しい儀式に付き合わせてしまい、申し訳ないと思っている…。だが、確かな繋がりを築きたいと思う俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。
…サッサと儀式を終えて早く別邸に帰ろう。」
この立場に不安と重圧に押しつぶされそうな大事な婚約者に、何を伝え、どう励まし、守るべきか…皇帝としての自分と、ただの男としての自分が攻めぎ合う。
「少し…自分の立場を実感して、怖気付いてしまいましたが…。大丈夫です。陛下のお力になりたいです。」
確かな目の輝きを取り戻して微笑む香蘭は、凛としていて美しい。
「ありがとう香蘭、愛している。
そなたが側にいてくれるだけで俺は十分満足している。」
分かりやすく気持ちを露として、晴明は再び香蘭の唇に軽く口付けを落とす。
「…紅が…。」
香蘭はフフッと笑って、陛下の唇を帯に隠し持っていた布でそっと拭う。
香蘭側の知り合いである踊り子仲間達は、この事を知られたら今後の旅に差し支えると、香蘭たっての希望で秘密にされている。世間的にはまだ名を明かされる事はない。
それは何故か、何者かに命を狙われている香蘭を思い守る為でもある。
「…お待たせして、申し訳ありません。」
香蘭が陛下が待つ控えの間に到着した時には、既に息が少し上がってしまうくらいの運動量になっていた。
後宮から宮殿は片道でも10分ほどかかる広さだ。
それでも陛下に失礼がないよう、両膝を付き頭を下げて挨拶の形をとる。
軽く微笑んだ陛下が立ち上がり、香蘭の手に触れ立ち上がらせる。
「待つという事を楽しんでいたから気にしなくて良い。…とりあえず、彼女に水分を。」
皇帝陛下からの指示は絶対だ。
使用人達はその一言で一斉に動き出し、バタバタとお茶やら菓子やらが運ばれて来る。
「…ありがとう、ございます。」
陛下が誘導される長椅子に座り、お茶を飲んでホッと一息付く事が出来た。
その間に女官達が香蘭の衣装の乱れを整え、化粧を直し元の形に整えてくれる。
「2人にしてくれ。」
陛下の指示で、部屋にいた全ての者がサササッと機敏に動き、頭を下げて去って行く。
「香蘭…顔を見せて。
大丈夫か?あの老害に何を言われたとしても気にしなくていいんだ。聞くに値しない価値の無い話しばかりなのだから。」
「…⁉︎⁉︎⁉︎」
陛下が陛下で有るまじき言葉を吐くので、思わず香蘭は目を見開いて固まる。その顔を隠していた薄布を陛下が手で払い除ける。
目が合って、間近で優しい眼差しで見つめられて、ドキンと心が弾む。
サラッと頬に触れられると、蕩けてしまいそうなほど甘美な蜜に誘われる。
ここで泣いてしまえば、きっと陛下はこの儀式をすぐさま取りやめてしまわれるだろうか…。
ここまでの重圧に堪え兼ねて、香蘭の頭の片隅に逃げ出してしまいたいと思う気持ちが一瞬掠める。
だけど何も言わずに推し止まり、ぎゅっと唇を噛みしめ微笑みを返す。
その唇にそっと陛下は口付けをする。
初めての口付けがこんな場だなんて…思ってもいなかったから香蘭は固まり瞬きを繰り返していた。
お陰で先程まで打ちひしがれて弱った心が息を吹き返す。
「そなたにはこんな堅苦しい儀式に付き合わせてしまい、申し訳ないと思っている…。だが、確かな繋がりを築きたいと思う俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。
…サッサと儀式を終えて早く別邸に帰ろう。」
この立場に不安と重圧に押しつぶされそうな大事な婚約者に、何を伝え、どう励まし、守るべきか…皇帝としての自分と、ただの男としての自分が攻めぎ合う。
「少し…自分の立場を実感して、怖気付いてしまいましたが…。大丈夫です。陛下のお力になりたいです。」
確かな目の輝きを取り戻して微笑む香蘭は、凛としていて美しい。
「ありがとう香蘭、愛している。
そなたが側にいてくれるだけで俺は十分満足している。」
分かりやすく気持ちを露として、晴明は再び香蘭の唇に軽く口付けを落とす。
「…紅が…。」
香蘭はフフッと笑って、陛下の唇を帯に隠し持っていた布でそっと拭う。



