一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

「香蘭様、おなりでございます。」

上皇后とはご祈祷の際に会ってはいるが、そのなんとも言えないオーラに香蘭は萎縮してしまう。

「…香蘭と申します。どうぞよろしくお願い致します。」

緊張のあまり声が震える。

「卑しい身分でありながら、良くぞ来られたものだ。
どうやってあの堅物に取り入ったか、不愉快この上無い。」
上皇后が棘だらけの言葉を言い放つ。

これが世の中の本音なのだと、香蘭は頭を下げ続け、甘んじて受け止めるしかない。

「まぁ、晴明とてしがない側室の子。田舎で育った野生児が、運だけでここにいるような男。ある意味似合いだの。一歩譲って後宮に入る事は許そう。
だが、決して子は成すな。これ以上、高貴な血を濁す事許さん。」

晴明から前もって『あの人の言う事は聞き流がせ。いちいち聞いてたら身がもたない。今は膿を出す為に泳がせているだけだから、何を言われても気にしなくていい。』
その言葉を思い出し、何とか気持ちを保っている。

彼は毎日この嫌味に耐えているのだろうか…。振りかざされる差別的な重圧に、耐え凌ぐ強さを身に付けなければ、心がぼろぼろになってしまうだろう。 

「…晴明には既に3人の側室がいる。彼女達は皆申し分ない血筋の令嬢達なのだから、そなたは勘違いする事なきようせいぜい控えめにいなさい。」

香蘭は頭を下げたまま何も言葉を発する事も出来ず、上皇后はフンっと鼻息を荒く、言いたい事だけ言ってサッサっと消えて行った。

後に1人残された香蘭はしばらく放心状態で動けないでいた。

「あの…香蘭様、そろそろ陛下の所へ行かないと…。」
なかなか出て来ない香蘭を心配して、李生が廊下から声をかける。ハッと我に返った香蘭は、

「ごめんなさい、宮殿へ急ぎ戻りましょう。」
と、足早に移動する。

「姐様、大丈夫です。時間は予定通りなのでゆっくり行きましょう。それよりも…一度、休憩しますか?お茶でも飲んで一息入れた方が…。」

どう見ても上皇后と会ってから、姐様の気持ちが沈んでしまって見える。今日と言う大事な時に、あのお方は容赦なく何を言ったんだと、寧々は怒りすら覚える。

「大丈夫よ。陛下をお待たせしてるから、早く行かなくては。」

姐様は健気にも前を向いて歩いている。

そんなに頑張らないでと、抱きしめて慰めてあげたい気持ちを押し込めて、寧々も出来る限り香蘭が歩きやすいように、裾を抱えて着いて行くしかなかった。