一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜


香蘭は宮殿内に足を踏み入れると、まずは上皇様、上皇后への挨拶の儀となる。

足を宮殿の奥深く、後宮にまで運ばなければならない。

通常なら宮殿の催事場で全て終わる事になるのだが、上皇は今持って床に伏せっている。意識は取り戻し座れるまでに回復はしたが、年も歳ゆえ油断ならない状態だ。

本来なら上皇后のお目通しだけで終わる予定だったが、昨夜、上皇が香蘭にどうしても会いたいと、急きょ変更になったのだ。

長い廊下をひた歩く。

お供は、李生と寧々2人だけ。

宮中の中の警備はもちろん厳戒だが、先程の刺客に仲間がいるのなら、内部から手助けされて、入り込んでいるに違いないから安心は出来ない。

李生と寧々は細心の注意を払って着いて行く。

長い廊下を静々と進む。
香蘭にとって後宮は祈祷の時入った場所だが、その時部屋にほぼ軟禁状態だったから、初めて歩く場所ばかりだ。

祈祷を執り行った中庭を抜け、無事に奥宮まだ辿り着く。

まずは、上皇が寝ている神殿まで足を運ぶ。

「婚約者様、御成でございます。」
静々と、入り口で控えていた女官が中に声をかける。

「香蘭と申します。」
閲覧の間に通されて、ひたすらに伏して声がかかるのを待つ。

「そなたが…祈祷の際…舞を待った踊り子か…?苦しゅうない近う寄れ。」
弱々しい声だが、上皇の声を初めて聞く。

「はい…。」
香蘭は言われるがままに、寝台に近付く。

寝台には簾が降りていて、ただでさえ薄布を被っている香蘭からは何も見えない状態だ。

それに本来の立場なら、高貴な方と目を合わせてはならない身分だ。

香蘭は細心の注意を払って寝台に近付き頭を下げる。

「…顔が見たい…簾を上げよ。」
上皇からの指示に従い、側で控えていた数人の女官がススーッと動き簾が上がる。

「面をあげよ…。」
上皇の指示で、ここはゆっくりと顔を上げる。

「…晴明から珍しく、娶りたい女子がおると聞いたから…どれほどの女子かと…聞けば踊り子だと…
そなたのお陰で、余は生き永らえた…礼を申す。」

ついこの間まで、危篤状態だった者とは思えないほどだ。

「ありがたきお言葉でございます。」

「本当に…天女のような…佇まい…また、そなたの唄を聞かせてくれ。」
上皇にとって香蘭はある意味命の恩人であり、身分がどうのと言う気も無いらしい。

「どうぞ、お元気になられますよう、心からお祈り申し上げます。」
香蘭は緊張の中、それでも精一杯の気持ちを込めてそう伝える。

そしてまたの再会を上皇と約束して、次は上皇后のいる部屋へと向かう。