あっ…時を忘れて話してしまっていたけれど…
「私、戻らないと…座長に叱られてしまいます。」
急に我に帰り、今置かれた状況に慌てふためく。
急いで立ち上がるが、左足首がズキンと疼く。
「大丈夫か⁉︎」
すかさず、彼も立ち上がり身体を支えてくれる。
「だ、大丈夫です。あの…いろいろとありがとうございました。この恩は2度と忘れません。」
私は深くお辞儀をして、踵を返して歩き出す。
足首はズキズキと痛むけど歩けないほどでは無い。
きっと今頃躍起になって探されているだろう。
逃げ出した訳では無いと、話せば分かって貰えるだろうか…。
…折檻…されるだろうか…。
この先の事を思うと恐怖で身体が震えだす。
だけど、私の帰る場所はあそこしかないのよ…。自分にそう言い聞かせて先を急ぐ。
すると突然またフワッと横抱きに抱き上げられて、
「俺のせいで、そなたの立場が悪くなるのは解せない。一緒に行って申し開きをさせて頂く。」
その声の主はもちろん晴明様で…
「あ、あの…本当に、大丈夫です。
これ以上、ご迷惑をおかけする訳にはいけません。」
下ろして欲しいと懇願するのに、彼はそれでも頑なに下ろしてはくれない。
…これはどう見ても体罰案件だろう
…覚悟を決めて流れに逆らう事を諦める。
「俺が守るから大丈夫だ。」
強くそう言って、真っ直ぐ前を見て歩く晴明様の眼差しが眩しくて、これ以上拒む事も出来ずに、逞しい腕にただ身を任せる。
境内の表通りまで戻る。
重くはないだろうか…と心配になるのに、私を横抱きにしたまま、彼は気にする事なく堂々と闊歩する。
火事から逃げて来ただろう人並みを、逆流しながら先に進むと、舞台手前の小さなほったて小屋が見えて来る。
「お願いです…ここで、どうか下ろして下さい。…座長が…あそこに…。」
恐怖に慄き身震いするが、現実を目の当たりにして、親切な命の恩人を巻き込む訳には行かないと、必死に懇願し、ついには晴明様の方が根負けして、ハァーとため息混じりに下ろしてくれた。
「ありがとうございます。…ここでもう、本当に大丈夫ですから。」
これ以上先には行かせたくないと思ってしまう。
私の事をファンだと言ってくれる、貴重なこの人を守りたいと足を止めて再度お願いする。
座長の怖さを知らないから、決して話したら分かるような人ではない…
「…強情だな。だがしかし少し安心した。
舞台では死ぬ事も厭わないと言う風だったから、目を離すと消えてしまいそうで怖かったが…。今強い意思を感じる。」
こんな時なのに優しく目を細めて微笑む、彼の綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。
「…行くぞ。」
それでも着いて行く事は絶対らしい…
仕方なく、一歩一歩と覚悟を決めて歩き出す。
舞台周りは暗闇でも分かるくらい焼け焦げていた。
怪我人は出ていないだろうか…みんな無事だと良いのだけど…。
さっきまであんなに煌びやかで夢のような光景だったのに…。
本当に一夜の夢だったのだと、虚しさだけが残り胸を締め付けた。
「私、戻らないと…座長に叱られてしまいます。」
急に我に帰り、今置かれた状況に慌てふためく。
急いで立ち上がるが、左足首がズキンと疼く。
「大丈夫か⁉︎」
すかさず、彼も立ち上がり身体を支えてくれる。
「だ、大丈夫です。あの…いろいろとありがとうございました。この恩は2度と忘れません。」
私は深くお辞儀をして、踵を返して歩き出す。
足首はズキズキと痛むけど歩けないほどでは無い。
きっと今頃躍起になって探されているだろう。
逃げ出した訳では無いと、話せば分かって貰えるだろうか…。
…折檻…されるだろうか…。
この先の事を思うと恐怖で身体が震えだす。
だけど、私の帰る場所はあそこしかないのよ…。自分にそう言い聞かせて先を急ぐ。
すると突然またフワッと横抱きに抱き上げられて、
「俺のせいで、そなたの立場が悪くなるのは解せない。一緒に行って申し開きをさせて頂く。」
その声の主はもちろん晴明様で…
「あ、あの…本当に、大丈夫です。
これ以上、ご迷惑をおかけする訳にはいけません。」
下ろして欲しいと懇願するのに、彼はそれでも頑なに下ろしてはくれない。
…これはどう見ても体罰案件だろう
…覚悟を決めて流れに逆らう事を諦める。
「俺が守るから大丈夫だ。」
強くそう言って、真っ直ぐ前を見て歩く晴明様の眼差しが眩しくて、これ以上拒む事も出来ずに、逞しい腕にただ身を任せる。
境内の表通りまで戻る。
重くはないだろうか…と心配になるのに、私を横抱きにしたまま、彼は気にする事なく堂々と闊歩する。
火事から逃げて来ただろう人並みを、逆流しながら先に進むと、舞台手前の小さなほったて小屋が見えて来る。
「お願いです…ここで、どうか下ろして下さい。…座長が…あそこに…。」
恐怖に慄き身震いするが、現実を目の当たりにして、親切な命の恩人を巻き込む訳には行かないと、必死に懇願し、ついには晴明様の方が根負けして、ハァーとため息混じりに下ろしてくれた。
「ありがとうございます。…ここでもう、本当に大丈夫ですから。」
これ以上先には行かせたくないと思ってしまう。
私の事をファンだと言ってくれる、貴重なこの人を守りたいと足を止めて再度お願いする。
座長の怖さを知らないから、決して話したら分かるような人ではない…
「…強情だな。だがしかし少し安心した。
舞台では死ぬ事も厭わないと言う風だったから、目を離すと消えてしまいそうで怖かったが…。今強い意思を感じる。」
こんな時なのに優しく目を細めて微笑む、彼の綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。
「…行くぞ。」
それでも着いて行く事は絶対らしい…
仕方なく、一歩一歩と覚悟を決めて歩き出す。
舞台周りは暗闇でも分かるくらい焼け焦げていた。
怪我人は出ていないだろうか…みんな無事だと良いのだけど…。
さっきまであんなに煌びやかで夢のような光景だったのに…。
本当に一夜の夢だったのだと、虚しさだけが残り胸を締め付けた。



