一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

最後の一歩を上り終えて、香蘭はフーッと小さく息を吐く。緊張で固まっていた視界を少し解き、周りをそっと見渡す。

目の前には赤を基調とした豪華な宮殿がそびえ建っていた。その迫力に圧倒されて腰が引けてしまう。

そんな香蘭の背中を優しく支えていた晴明は、
「大丈夫。後は、段取り通り進むだろうから心配するな。」

「では、陛下は元の場所にお戻り下さいませ。」
やっと段取り通りに戻れると、側で聞いていた李生もホッとひと息吐く。

それなのに、晴明が目で李生に危険回避の合図を出す。
ハッとして全神経を集中させ合図を読み取る。

(3時の方向 頭上 刺客)

その手信号を瞬時に理解し、李生は再び身を引き締め3時の方向に意識を向ける。

陛下の命を狙う暗殺者なら、今狙うべき恰好のタイミングだが…そちらに狙いを定めていないようだ。と、なると香蘭様を狙っていたのか⁉︎

李生は思考を巡らす。

陛下はそれに気付き、自分が盾になるつもりで、自らの危険を顧みず迎えに来たのだと、今理解する。

いつから…?
馬車に乗り込む時から…⁉︎
いや…陛下が気付いたとなると、私が迎えに行く時に既に跡を付けられていた?

陛下は香蘭様を迎えに行くと言い出した時から、何か不審な動きを察知していたのだろうか?

この地位を得るまでに、陛下の千里眼で今まで幾つもの危機を乗り越えて来た。その才能は信頼に値する。

李生は刺客に目線を投げ宣戦布告する。

「では、余は先に戻るぞ。後は頼んだ。」
皇帝陛下の顔をして、晴明は何気ない顔で所定の位置に戻って行った。

陛下の事だ。こと、香蘭様に関しては異様なほどに敏感だから、きっと刺客は直ぐに捕らえられ調べ上げられるだろう。

主犯格は直ぐに見つかる筈だ、と李生は先を読む。

当の本人の香蘭は、そんな2人のやり取りには全く気付かないくらい緊張していたから、この事は後になってから知る事になる。