一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

バタバタと3日はあっという間にに過ぎ、いよいよ婚約の儀となる。

香蘭は朝早くから沐浴をして礼美な衣装に身を包む。
光沢のある絹で折った白地に、金の刺繍は鶴が一斉に飛び立つ風景をひと針ひと針丁寧に縫い留めたもので、まるで花嫁衣装と言っても良いくらいの素晴らしい出来だった。

「それにしても、これだけの衣をたった3日で仕上げてくるなんて、さすが宮中のお針子ですね。」
油淋と寧々の親子は朝から感心ひとしきりだ。

「宮中にはお針子さんもいらっしゃるんですね。私も習ってみようかな?」
その素晴らしい衣を身に纏いながら香蘭が言うから、

「何をおっしゃっているんですか?これからあなたは着る側なんですよ。お針子は下働きの女中の仕事です。」
女中頭の油淋が咎めるように香蘭に言う。

「でも…裁縫が出来た方が何かと便利でしょ?いつか晴明様の漢服も縫えるようになりたいです。」

「それは…過保護な陛下が許してくれるか分かりませんよ。本当、姐様に関しては煩いくらい、あーしろこーしろ言ってきますからね。」
本日も、寧々の歯に衣を着せぬ言葉達は健在のようだ。

「寧々!今日くらいは大人しくいなさいね。官僚はもちろん、地方からの領主や貴族の方々も集まって来るのですから、もしかしたらあなたの未来の旦那様だっているかもしれませんよ。」
油淋にとっては娘の花婿探しの場でもあるらしい。

「お母様…私まだまだ結婚なんてしません。」
寧々が不機嫌そうにそう答えている。

「私も…まさか自分が婚約なんて…。
ついこの間まで、どうやって1人で生きて行こうかと考えてたくらいですから。」

香蘭は、晴明に会ってから目まぐるしく変わる環境に、1番面食らっているのは当の本人なんだと2人に伝える。

「これこそ運命の出会いですよ。
お互い導かれるままに手と手をとって進んで行ってくださいな。この先を思うと不安で一杯だとは思いますが、陛下に身を委ねれば間違いないですから。」
油淋のお墨付きを頂き、少し心が落ち着きを取り戻す。

「油淋さんにそのように言ってもらって、凄く心強く感じます。」
香蘭は今朝1の笑みを漏らす。

「さぁさぁ、陛下の待つ宮殿へ行かなくてはなりませんから急ぎましょう。陛下の事だから痺れを切らして、迎えに来てしまうかもしれませんよ。」

油淋が微笑みながら冗談半分でそう言うけれど、心配症で過保護な婚約者様は、もしかしたら本当に来てしまうかもしれないと、香蘭は思ってしまう。

「お出迎えに上がりました。」
タイミングよく玄関から声が聞こえてくる。

「この声は李生様!
大変…頭飾りがまだ途中です。総動員で急ぎますよ。」
油淋はテキパキと数人の女中に指示を出し、急ぎ支度をなんとか完成させた。

最後に頭からすっぽりベールを被り、本日の着付けはやっと完成する。