その後は、婚約の儀の為の支度に追われる。
衣装合わせから始まって、参列者への引出物選びに殿下の衣装決め、全てが初めての事ばかりで夕方頃には頭がパンパンで疲労困憊(ひろうこんぱい)となる。
参列者への招待状の宛名を書きながら、頭がボーっとしてついには机に突っ伏してしまう。
このまま寝てしまいたい…
いつだって睡魔に勝てない私は、今夜もまともな眠りにつけそうもない。
「若様のお帰りです。」
うとうととする頭に声が急に飛び込んでくる。
「…お出迎えに行かなくちゃ!」
パッと起き上がり玄関先へとひた急ぐ。
はぁはぁと息を切らして、何とか陛下の到着前に辿り着いた。
「姐様…。お出迎えに一緒に並ばなくても、お部屋で悠々と待っていらっしゃれば良いのに…。未来を約束された婚約者様なんですから。」
寧々ちゃんが突然部屋を飛び出した、私を追いかけ駆けつけてくれる。
「私がそうしたいの。出来れば早く会いたいから。」
最近はこの別邸にいても誰かに見張られ、1人になれた試しが無い。少し息が詰まってしまいそうだから、無意識に自由を求めてしまう…。
別邸に働く何十人もの女中や使用人が、主人の帰りを聞きつけて玄関に並ぶ。
「お帰りなさいませ。」
一斉に頭を下げてこの邸宅の主人である皇帝陛下を出迎える。
それがいつもの光景で、あの方もきっと、いつだって1人きりにはなれなくて、窮屈な毎日を今までずっと送って来たのだと心中を慮る。
出迎えの列の真ん中を、堂々と闊歩する陛下が真っ直ぐに私の所へと向かって来る。
「ただいま。」
例え私がどこに紛れていても、すぐに見つけ出してしまう。
「お勤めお疲れ様でございました…陛下。」
深く頭を下げて臣下の礼を取る。
「そういう堅苦しいのは要らぬ。
…それよりも目が真っ赤だ。それに顔色も悪い。」
そう言って、不機嫌そうに私も抱き上げる。
「きゃっ…⁉︎
だ、大丈夫でございます…これは…少しうたた寝をしてしまったせいです…。」
この人が皇帝陛下なのだと認識してから、前よりもっと周りの視線が痛くて息苦しくて、恥ずかしくて、真っ赤になって下ろして欲しいと目で訴える。
だけど彼は全く気にする事も無く、抱き上げたまま歩き出す。
「うたた寝をするぐらい疲れていると言う事だ。
そんなに頑張り過ぎると婚約の儀まで身体がもたない。これ以上無茶をするなら部屋に閉じ込めてしまうぞ。」
陛下からそう言われてしまえば、シュンとして大人しく運ばれるしかない。
「申し訳…ございません…。」
逞しい胸板に赤くなった顔を隠しながら懸命に答える。
「冗談だ…。無茶をしなければこの邸内なら自由にしてくれていい。」
フッと笑ってくれるから、
「…ありがとうございます。
今夜のお夕食は食べて来られましたか?」
少し気持ちが軽くなって、帰って来てくれた事に心が弾む。
「いや、昼も食べ損ねたから腹ペコだ。そなたは食べたか?」
優しい微笑みで見つめられるとドキドキが止まらない。
「まだです。今夜は卵料理をお手伝いしました。」
私もつい、釣られて微笑んでしまう。
「料理も手伝ったのか?
そなたは大事な俺の婚約者だ。なぜそんなに下働きをしたがるのだ。」
「家事はとても楽しいのです。私にとって、今や趣味みたいなものですから。」
フーッと大袈裟にため息を吐きながら、
「では、招待状の宛名書きくらい誰かに任せても良いのではないか?」
いつだって私の1日の行動を知っていて、隠す事も出来ないほど筒抜けだ。
「宛名書きは漢字のお勉強になります。全て楽しくてしてるのです。」
「我が婚約者殿は働き者で困ったものだ。」
そんなたわいも無い会話をしながら、気付けば先に私を食堂へと運んでくれる。
フワッと座布団の上に下ろされる。
「着替えて来るから少し待っててくれ。」
私の頭をポンポンと撫でて、陛下は部屋をひとまず去って行った。
衣装合わせから始まって、参列者への引出物選びに殿下の衣装決め、全てが初めての事ばかりで夕方頃には頭がパンパンで疲労困憊(ひろうこんぱい)となる。
参列者への招待状の宛名を書きながら、頭がボーっとしてついには机に突っ伏してしまう。
このまま寝てしまいたい…
いつだって睡魔に勝てない私は、今夜もまともな眠りにつけそうもない。
「若様のお帰りです。」
うとうととする頭に声が急に飛び込んでくる。
「…お出迎えに行かなくちゃ!」
パッと起き上がり玄関先へとひた急ぐ。
はぁはぁと息を切らして、何とか陛下の到着前に辿り着いた。
「姐様…。お出迎えに一緒に並ばなくても、お部屋で悠々と待っていらっしゃれば良いのに…。未来を約束された婚約者様なんですから。」
寧々ちゃんが突然部屋を飛び出した、私を追いかけ駆けつけてくれる。
「私がそうしたいの。出来れば早く会いたいから。」
最近はこの別邸にいても誰かに見張られ、1人になれた試しが無い。少し息が詰まってしまいそうだから、無意識に自由を求めてしまう…。
別邸に働く何十人もの女中や使用人が、主人の帰りを聞きつけて玄関に並ぶ。
「お帰りなさいませ。」
一斉に頭を下げてこの邸宅の主人である皇帝陛下を出迎える。
それがいつもの光景で、あの方もきっと、いつだって1人きりにはなれなくて、窮屈な毎日を今までずっと送って来たのだと心中を慮る。
出迎えの列の真ん中を、堂々と闊歩する陛下が真っ直ぐに私の所へと向かって来る。
「ただいま。」
例え私がどこに紛れていても、すぐに見つけ出してしまう。
「お勤めお疲れ様でございました…陛下。」
深く頭を下げて臣下の礼を取る。
「そういう堅苦しいのは要らぬ。
…それよりも目が真っ赤だ。それに顔色も悪い。」
そう言って、不機嫌そうに私も抱き上げる。
「きゃっ…⁉︎
だ、大丈夫でございます…これは…少しうたた寝をしてしまったせいです…。」
この人が皇帝陛下なのだと認識してから、前よりもっと周りの視線が痛くて息苦しくて、恥ずかしくて、真っ赤になって下ろして欲しいと目で訴える。
だけど彼は全く気にする事も無く、抱き上げたまま歩き出す。
「うたた寝をするぐらい疲れていると言う事だ。
そんなに頑張り過ぎると婚約の儀まで身体がもたない。これ以上無茶をするなら部屋に閉じ込めてしまうぞ。」
陛下からそう言われてしまえば、シュンとして大人しく運ばれるしかない。
「申し訳…ございません…。」
逞しい胸板に赤くなった顔を隠しながら懸命に答える。
「冗談だ…。無茶をしなければこの邸内なら自由にしてくれていい。」
フッと笑ってくれるから、
「…ありがとうございます。
今夜のお夕食は食べて来られましたか?」
少し気持ちが軽くなって、帰って来てくれた事に心が弾む。
「いや、昼も食べ損ねたから腹ペコだ。そなたは食べたか?」
優しい微笑みで見つめられるとドキドキが止まらない。
「まだです。今夜は卵料理をお手伝いしました。」
私もつい、釣られて微笑んでしまう。
「料理も手伝ったのか?
そなたは大事な俺の婚約者だ。なぜそんなに下働きをしたがるのだ。」
「家事はとても楽しいのです。私にとって、今や趣味みたいなものですから。」
フーッと大袈裟にため息を吐きながら、
「では、招待状の宛名書きくらい誰かに任せても良いのではないか?」
いつだって私の1日の行動を知っていて、隠す事も出来ないほど筒抜けだ。
「宛名書きは漢字のお勉強になります。全て楽しくてしてるのです。」
「我が婚約者殿は働き者で困ったものだ。」
そんなたわいも無い会話をしながら、気付けば先に私を食堂へと運んでくれる。
フワッと座布団の上に下ろされる。
「着替えて来るから少し待っててくれ。」
私の頭をポンポンと撫でて、陛下は部屋をひとまず去って行った。



