一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

「離れ難いが…そろそろ部屋へ戻らなければな。
部屋まで送って行く。」

晴明は立ち上がり、握っていた香蘭の手を引き寄せ、立ち上がろうとする香蘭を抱きしめる。バランスを崩して晴明の逞しい腕の中、全体重を預けるように倒れ込んでしまう。

「ひゃあ…!ご、ごめんなさい。」
心臓がドキンと跳ねて、慌てて離れようとするのに、抱きしめられた腕から逃れる事は難しい…。

「香蘭…出発はいつだ?」
やっと心が通じ合ったのに、直ぐに手離さなければならない現実に晴明は打ちのめされていた。

「…来週の日曜日には…合流するつもりです。」
ぎゅっと抱き締められている力が増して、より密着してしまう事に香蘭は戸惑いを覚える。

これまで男子禁制の閉じられた世界にいたのだから、異性に触れられる事には慣れていない…。
自分の心臓の音がドキドキとあり得ないくらい身体中に響きわたる。

「分かった。今週末に婚約の儀を取り行う。」

「えっ…?婚約の儀!?」
事の早さに頭がついていけない香蘭は、瞬きを繰り返すばかり…

「そなたが側にいる間に、確かな繋がりを築いておきたい。誰かに奪われたくないからな。」
にこりと笑みを浮かべる晴明は、既に先を見据えているようだ。

「…私…男性と会う機会なんてほとんどありませんから、いらない心配だと思いますよ?」

「そなたは何も分かってない。」
晴明は、不意に香蘭の額に口付けを落とす。
香蘭はビクッと体を震わせて、目を丸め驚いている。

その反応を面白そうに晴明がフッと笑らう。

「若様、そろそろご就寝のお時間です。」
なかなか部屋から出てこない2人に、痺れを切らせた女中頭の油淋が扉の向こうから声をかけてくる。

「分かった…。」
仕方がないという感じで渋々香蘭から離れ、そして彼女の手を取り部屋を出る。

「今週末に婚約の儀を取り行う。急ぎ準備を。」
出会い頭に、さも当たり前のように晴明が油淋に指示を出す。

「はい!?」
さすがの油淋も驚きを隠せないが、

「承知致しました…急ぎ手配致します。
えっと…若様、鈴蘭様、お、おめでとうございます。こうしては入られません。急ぎますので私はこれで。」
ドギマギしながらも、これは一大事だと飛んで行ってしまった。

「…香蘭が本名だと伝え損ねたな…。」
晴明が苦笑いしながらそう言うから、気にするところはそこ⁉︎と、香蘭も苦笑いする。

「積もる話しもあるし、一緒に寝るか?」
廊下を2人歩きながら、晴明が軽口をたたく。

「む、無理です!…今夜は、ちょ、ちょっと心の準備が…。」

「そうか…残念だな。」
フフッと笑う晴明は、本気なのか揶揄っているのか分からない。