「晴明様。私に、あなたを救う事が出来ますか?
…あなたの孤独を癒してあげられるでしょうか?」
鈴蘭から思ってもいない答えが帰って来て、晴明の思考は一瞬停止する。
「恐れながら、申し上げます。
私も…あなた様を…お慕い、申し上げております。
叶うのならば、年季が開けたらこちらに戻って来たいのですが…。
その時、もしもまだ…お気持ちにお変わりがなければ…側室にとは申しません。宮使いでもなんだって構いません。どうか、あなたのお側に…置いて頂けないでしょうか?」
「えっ……!?」
思ってもいなかった告白に、晴明は言葉を失い…しばし沈黙が続く。
「私は…自分の身元も分からぬ孤児です。学も無ければ、踊り意外何も出来ません。
晴明様にとって、不釣り合いな事も重々承知しております。
だけど…あなたがこれから先、孤独に生きる事を思うととても辛すぎます。
どんな形でも構いません。踊れと言われれば踊りますし、唄えと言われればどこでだって唄います。
なので、どうかお顔が見えるくらいのお側に…置いて頂けないでしょうか?」
懇願にも似た香蘭の言葉は、晴明の凝り固まっていた硬い頭を一瞬で吹き飛ばした。
「本気か…!?ただの同情なら要らぬ。
俺は元より孤独には慣れている。そなたには人並みに幸せになって欲しいし、自由であって欲しいのだ。」
彼女の幸せを1番に願う。
晴明は嬉しいと思う反面、後宮という檻の中に彼女を閉じ込め、自由を奪ってしまう事に心苦しさを感じて、思いとは裏腹の事がつい口から出てしまう。
「本気で、ございます。
ずっと考えていたのです。踊り子はこの先、芸者や遊女になるしかない身分です。きっとずっと誰かに縛られて生きる運命なのですから…。
そんな私が…晴明様のお力に少しでもなれるのなら、それだけで生きている意味を見いだせる気がします。
元よりあなたに助けられた命です。あなたの為に使いたいと思うのです。」
鈴蘭はひっそりと、それでもしっかりとした口調で話す。
「鈴蘭、俺は罪深い男だ。
本音ではずっと側に居て欲しいと、出来れば正妃になって欲しいと願って止まない。」
次にびっくりするのは鈴蘭の方だった。
正妃だなんて考えたことも無かった。私に務まる訳が無い。
「正妃…だなんて…とても、無理です…。」
ただ、そばに居たいと思うだけでは難しい現実がそこにあった。事の重大さに鈴蘭は今、気付く。
「自分の立場を隠して近付いた事、申し訳なかったと深く反省している。
それでも俺は…願いが叶うのであればそなたと一緒に生きて行きたい。正妃として側にいて欲しい。
年季が開けるまでの間、どうか考えてみて欲しい。」
晴明は深く頭を下げる。
王たる者、むやみに頭を下げてはいけない。帝王学ではそう学んだが、彼女の前では1人の男で有りたいと、誠心誠意詫びる。
「陛下!?…おやめ下さい。貴方は何も悪くありません。知っていながら言い出せなかったのは私も同じです。
…私こそ一つお伝えしていない事があります。」
申し訳なさそうな顔で鈴蘭が言う。
「どのような事だ?暴露するなら今のうちだぞ。」
彼女の気持ちが軽くなればと、少し軽口をたたく。
「実は…私の名前なのですが…本当は鈴蘭ではなく…香蘭(こうらん)と申します。苗字は分かりませんが…。」
晴明はフッと笑って、
「綺麗な名だ。香蘭…そなたにとても合っている。」
初めて本当の名を呼ばれ、鈴蘭改め香蘭はなんだか恥ずかしくて俯いてしまう。
お互い心の内を曝け出して、少し肩の力が抜けた。
「実は、ここだけの話しなのだが…。」
晴明はそう切り出して、この国の最重要事項をサラッと話し始める。
「近いうちに、後宮を解体して側室制度を廃止したいと思っている。そもそも上皇が子を沢山もうけたから、兄弟間に亀裂が生じ内戦が勃発したのだ。俺はそなたがいてくれたら充分だし、他に何も望まない。
それに、身分制度を無くしたい。今のままでは古き悪き勢力者に邪魔されて、能力のある者が埋もれてしまうのだ。
皆平等の世の中にしなければこの国は衰退の一途を辿る。」
ああ、この方は確かに人の上に立ち、国を治めようとする正真正銘の皇帝陛下なのだ。
全ての言葉は民の為にあり、その一言で沢山の民を救うだろう。
香蘭はそう思うと同時に身の引き締まる思いがした。
「その全てを成し遂げた時、俺は皇帝の座を兄に譲りたいと密かに思っている。」
晴明の熱く揺るぎない眼差しは、既に全てを見据えて遥か彼方を見定めいる。この方ならやり遂げるだろうと香蘭も強く感じる。
「晴明様のお役に立てるのなら、お側に置いてくださいませ。」
香蘭もまた決意を込めて晴明を見上げる。
「ありがとう。この先何が起きてもそなただけは守り抜くと約束しよう。」
晴明は香蘭の小さな両手を握り締め、2人しばらく見つめ合う。
…あなたの孤独を癒してあげられるでしょうか?」
鈴蘭から思ってもいない答えが帰って来て、晴明の思考は一瞬停止する。
「恐れながら、申し上げます。
私も…あなた様を…お慕い、申し上げております。
叶うのならば、年季が開けたらこちらに戻って来たいのですが…。
その時、もしもまだ…お気持ちにお変わりがなければ…側室にとは申しません。宮使いでもなんだって構いません。どうか、あなたのお側に…置いて頂けないでしょうか?」
「えっ……!?」
思ってもいなかった告白に、晴明は言葉を失い…しばし沈黙が続く。
「私は…自分の身元も分からぬ孤児です。学も無ければ、踊り意外何も出来ません。
晴明様にとって、不釣り合いな事も重々承知しております。
だけど…あなたがこれから先、孤独に生きる事を思うととても辛すぎます。
どんな形でも構いません。踊れと言われれば踊りますし、唄えと言われればどこでだって唄います。
なので、どうかお顔が見えるくらいのお側に…置いて頂けないでしょうか?」
懇願にも似た香蘭の言葉は、晴明の凝り固まっていた硬い頭を一瞬で吹き飛ばした。
「本気か…!?ただの同情なら要らぬ。
俺は元より孤独には慣れている。そなたには人並みに幸せになって欲しいし、自由であって欲しいのだ。」
彼女の幸せを1番に願う。
晴明は嬉しいと思う反面、後宮という檻の中に彼女を閉じ込め、自由を奪ってしまう事に心苦しさを感じて、思いとは裏腹の事がつい口から出てしまう。
「本気で、ございます。
ずっと考えていたのです。踊り子はこの先、芸者や遊女になるしかない身分です。きっとずっと誰かに縛られて生きる運命なのですから…。
そんな私が…晴明様のお力に少しでもなれるのなら、それだけで生きている意味を見いだせる気がします。
元よりあなたに助けられた命です。あなたの為に使いたいと思うのです。」
鈴蘭はひっそりと、それでもしっかりとした口調で話す。
「鈴蘭、俺は罪深い男だ。
本音ではずっと側に居て欲しいと、出来れば正妃になって欲しいと願って止まない。」
次にびっくりするのは鈴蘭の方だった。
正妃だなんて考えたことも無かった。私に務まる訳が無い。
「正妃…だなんて…とても、無理です…。」
ただ、そばに居たいと思うだけでは難しい現実がそこにあった。事の重大さに鈴蘭は今、気付く。
「自分の立場を隠して近付いた事、申し訳なかったと深く反省している。
それでも俺は…願いが叶うのであればそなたと一緒に生きて行きたい。正妃として側にいて欲しい。
年季が開けるまでの間、どうか考えてみて欲しい。」
晴明は深く頭を下げる。
王たる者、むやみに頭を下げてはいけない。帝王学ではそう学んだが、彼女の前では1人の男で有りたいと、誠心誠意詫びる。
「陛下!?…おやめ下さい。貴方は何も悪くありません。知っていながら言い出せなかったのは私も同じです。
…私こそ一つお伝えしていない事があります。」
申し訳なさそうな顔で鈴蘭が言う。
「どのような事だ?暴露するなら今のうちだぞ。」
彼女の気持ちが軽くなればと、少し軽口をたたく。
「実は…私の名前なのですが…本当は鈴蘭ではなく…香蘭(こうらん)と申します。苗字は分かりませんが…。」
晴明はフッと笑って、
「綺麗な名だ。香蘭…そなたにとても合っている。」
初めて本当の名を呼ばれ、鈴蘭改め香蘭はなんだか恥ずかしくて俯いてしまう。
お互い心の内を曝け出して、少し肩の力が抜けた。
「実は、ここだけの話しなのだが…。」
晴明はそう切り出して、この国の最重要事項をサラッと話し始める。
「近いうちに、後宮を解体して側室制度を廃止したいと思っている。そもそも上皇が子を沢山もうけたから、兄弟間に亀裂が生じ内戦が勃発したのだ。俺はそなたがいてくれたら充分だし、他に何も望まない。
それに、身分制度を無くしたい。今のままでは古き悪き勢力者に邪魔されて、能力のある者が埋もれてしまうのだ。
皆平等の世の中にしなければこの国は衰退の一途を辿る。」
ああ、この方は確かに人の上に立ち、国を治めようとする正真正銘の皇帝陛下なのだ。
全ての言葉は民の為にあり、その一言で沢山の民を救うだろう。
香蘭はそう思うと同時に身の引き締まる思いがした。
「その全てを成し遂げた時、俺は皇帝の座を兄に譲りたいと密かに思っている。」
晴明の熱く揺るぎない眼差しは、既に全てを見据えて遥か彼方を見定めいる。この方ならやり遂げるだろうと香蘭も強く感じる。
「晴明様のお役に立てるのなら、お側に置いてくださいませ。」
香蘭もまた決意を込めて晴明を見上げる。
「ありがとう。この先何が起きてもそなただけは守り抜くと約束しよう。」
晴明は香蘭の小さな両手を握り締め、2人しばらく見つめ合う。



