お茶を入れ、綺麗な所作で鈴蘭が晴明の側までそれを運ぶ。
その出立ちと仕草が妙に色っぽく見えて、ついそっと垣間見る。
「晴明様は他に何がお好きですか?」
鈴蘭がついに本題を話し出すかと、身構えていた晴明だが、不意をついた話しに苦笑いする。
「そうだな…甘い物だったら饅頭が好きだ。こし餡よりも粒あんだ。料理なら野菜より肉が好きだし、辛いものも好きだが、甘い味も好きだ。
それよりも何よりも、俺はそなたが1番好きなのだが…。
鈴蘭…ここから出て行くと言う話しか?」
先手必勝とばかりに本題へと話しを進める。
ドキンとして鈴蘭は心臓が一気に高鳴る。
そして、晴明を見つめてしばらく考え込む。なんて話し出すべきか、これまでのご恩を仇で返すような事にはしたくなくて…。
決心がついたもののなかなか言い出せずにいた。
晴明様には敵わない…。
なんだっていつだって、私の考えてる事なんてお見通しだ。
「はい…実は、座長の取り調べが終わったと聞きました。一座はしばらく座長無しで旅へ出発する事になったようです。
踊り子達の中にはまだまだ小さな子もいますし、私ばかりが逃げていては申し訳ないと…。
出来れば一緒に旅立ちたいのです。お許しを頂けますか?…。」
フーッと深い息を吐き、晴明は話し出す。
「そなたは自由だ。誰も止める権利は無い。
ただ、一つ…鈴蘭に伝えなければ行けない事がある。」
ひと息吐いて鈴蘭を見つめる。
そして、その華奢な白い手を握り話し出す。
「ずっと、曖昧にしていた事だが…。察しの良い鈴蘭だから…何となく気付いて居たのかもしれないが…
これまで、役人だとしか伝えていなかったのだが…。」
珍しく歯切れの悪い晴明が、次の一言が出ないでいる。
「皇帝…陛下であらせられますよね…。」
鈴蘭が次の言葉を先取りする。
目を見張り晴明は鈴蘭を見つめる。
「…やはり知っていたのだな…いつからだ?」
そこまでハッキリ知っていたのかと、ショックにも似た衝撃を受ける。
「上皇様のご祈祷の際に…お貸し頂いた履き物と…皇帝陛下が同じ物を…。あの刺繍の絵柄は王族の方しか許されないと…後から聞きました。私も知っていながら、ずっと言い出せなくて…申し訳ありませんでした。」
「いや、謝るべきなのは俺の方だ。
出会った時に直ぐ伝えるべきだったのだ。
だが…そなたが離れてしまうのが分かっていたから…なかなか言い出せずにいた。
鈴蘭…愛してる。誰よりも、ずっと一緒にいて欲しいと思うのはそなただけだ。」
今まで心に止めていた思いの丈を初めて口にする。
「なぜ…私なんかをそれほどまでに…?」
鈴蘭が震える声で問いかけてくる。
握り締めた手が離れないように、そっと握り直し晴明は話し出す。
「理屈ではないのだ。3年前、初めてそなたの舞台を見た。その時から、寝ても覚めても忘れられない存在になった。俗でいう一目惚れなんだと思う。
その頃、俺は皇帝に即位したばかりで慣れない仕事に官僚からの圧、隣国との緊迫したやり取り、いろいろなストレスを抱えていた。
気分転換にと、李生が街の収穫祭にお忍びで連れ出してくれたのだ。
一方的な想いだけで、それだけで良いと思っていたのだ、ずっと…。
俺の立場はとても微妙で、命さえいつ取られるか分からない身の上だ。
それに皇帝とは面倒くさいものでしかなく、俺に好かれたところで、誰も幸せになんてなれないと…既に諦めている。」
そこまで話して、晴明はお茶を一杯ごくごくと飲み干す。喉がカラカラになるほどいつになく、緊張しているのだ。
鈴蘭を見れば、目を真っ赤にして今にも泣き出しそうにしている。
唇を噛み締め晴明は話しを続ける。
「俺の母は身分も低く、俺を産んでからも後宮では居場所が無く辛い思いをしていた。
幼い頃からそんな母を見ていたせいか、俺は誰も好きにはならぬと、子を儲けるつもりもないと思っていた。
ただ、淡々と求められる役割を国の為、国民の為に命尽きるまで身を粉にして働き続けるのだと思っていた。
だが、そなたと意図なく近付けて、話せばもっと惹かれてしまい、触れてしまえば…誰にも奪われたくないと…勝手に思ってしまう始末だ。
これは一方的な想いだと分かっているから、鈴蘭が思い悩む事は無い。
ただ一年後、一座を去らなくではいけないと聞くから、その時は身請けしてそなたを自由にしてあげたいと思っている。そなたは自由になれる。好きに所に行き、好きな事をして生きれば良いのだ。」
全てを話し終えて晴明は、はぁーっと深い息を吐く。
鈴蘭に答えは求めていない。
後は彼女を苦しめる事がないように、そっと手放してやるのが俺の役目だと、晴明はぎゅっとその小さな手を握りしめた。
その出立ちと仕草が妙に色っぽく見えて、ついそっと垣間見る。
「晴明様は他に何がお好きですか?」
鈴蘭がついに本題を話し出すかと、身構えていた晴明だが、不意をついた話しに苦笑いする。
「そうだな…甘い物だったら饅頭が好きだ。こし餡よりも粒あんだ。料理なら野菜より肉が好きだし、辛いものも好きだが、甘い味も好きだ。
それよりも何よりも、俺はそなたが1番好きなのだが…。
鈴蘭…ここから出て行くと言う話しか?」
先手必勝とばかりに本題へと話しを進める。
ドキンとして鈴蘭は心臓が一気に高鳴る。
そして、晴明を見つめてしばらく考え込む。なんて話し出すべきか、これまでのご恩を仇で返すような事にはしたくなくて…。
決心がついたもののなかなか言い出せずにいた。
晴明様には敵わない…。
なんだっていつだって、私の考えてる事なんてお見通しだ。
「はい…実は、座長の取り調べが終わったと聞きました。一座はしばらく座長無しで旅へ出発する事になったようです。
踊り子達の中にはまだまだ小さな子もいますし、私ばかりが逃げていては申し訳ないと…。
出来れば一緒に旅立ちたいのです。お許しを頂けますか?…。」
フーッと深い息を吐き、晴明は話し出す。
「そなたは自由だ。誰も止める権利は無い。
ただ、一つ…鈴蘭に伝えなければ行けない事がある。」
ひと息吐いて鈴蘭を見つめる。
そして、その華奢な白い手を握り話し出す。
「ずっと、曖昧にしていた事だが…。察しの良い鈴蘭だから…何となく気付いて居たのかもしれないが…
これまで、役人だとしか伝えていなかったのだが…。」
珍しく歯切れの悪い晴明が、次の一言が出ないでいる。
「皇帝…陛下であらせられますよね…。」
鈴蘭が次の言葉を先取りする。
目を見張り晴明は鈴蘭を見つめる。
「…やはり知っていたのだな…いつからだ?」
そこまでハッキリ知っていたのかと、ショックにも似た衝撃を受ける。
「上皇様のご祈祷の際に…お貸し頂いた履き物と…皇帝陛下が同じ物を…。あの刺繍の絵柄は王族の方しか許されないと…後から聞きました。私も知っていながら、ずっと言い出せなくて…申し訳ありませんでした。」
「いや、謝るべきなのは俺の方だ。
出会った時に直ぐ伝えるべきだったのだ。
だが…そなたが離れてしまうのが分かっていたから…なかなか言い出せずにいた。
鈴蘭…愛してる。誰よりも、ずっと一緒にいて欲しいと思うのはそなただけだ。」
今まで心に止めていた思いの丈を初めて口にする。
「なぜ…私なんかをそれほどまでに…?」
鈴蘭が震える声で問いかけてくる。
握り締めた手が離れないように、そっと握り直し晴明は話し出す。
「理屈ではないのだ。3年前、初めてそなたの舞台を見た。その時から、寝ても覚めても忘れられない存在になった。俗でいう一目惚れなんだと思う。
その頃、俺は皇帝に即位したばかりで慣れない仕事に官僚からの圧、隣国との緊迫したやり取り、いろいろなストレスを抱えていた。
気分転換にと、李生が街の収穫祭にお忍びで連れ出してくれたのだ。
一方的な想いだけで、それだけで良いと思っていたのだ、ずっと…。
俺の立場はとても微妙で、命さえいつ取られるか分からない身の上だ。
それに皇帝とは面倒くさいものでしかなく、俺に好かれたところで、誰も幸せになんてなれないと…既に諦めている。」
そこまで話して、晴明はお茶を一杯ごくごくと飲み干す。喉がカラカラになるほどいつになく、緊張しているのだ。
鈴蘭を見れば、目を真っ赤にして今にも泣き出しそうにしている。
唇を噛み締め晴明は話しを続ける。
「俺の母は身分も低く、俺を産んでからも後宮では居場所が無く辛い思いをしていた。
幼い頃からそんな母を見ていたせいか、俺は誰も好きにはならぬと、子を儲けるつもりもないと思っていた。
ただ、淡々と求められる役割を国の為、国民の為に命尽きるまで身を粉にして働き続けるのだと思っていた。
だが、そなたと意図なく近付けて、話せばもっと惹かれてしまい、触れてしまえば…誰にも奪われたくないと…勝手に思ってしまう始末だ。
これは一方的な想いだと分かっているから、鈴蘭が思い悩む事は無い。
ただ一年後、一座を去らなくではいけないと聞くから、その時は身請けしてそなたを自由にしてあげたいと思っている。そなたは自由になれる。好きに所に行き、好きな事をして生きれば良いのだ。」
全てを話し終えて晴明は、はぁーっと深い息を吐く。
鈴蘭に答えは求めていない。
後は彼女を苦しめる事がないように、そっと手放してやるのが俺の役目だと、晴明はぎゅっとその小さな手を握りしめた。



