一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

晴明は部屋着に着替えて、今日1日の全てを脱ぎ捨ててホッとひと息吐く。

我が家だと思うほどに心地良くホッと出来る場所を得た。彼女がいる所が、自分の帰るべき場所なのだ。

それほどまでに思えるほど、鈴蘭の笑顔を見るだけで幸せだと実感する。

この幸せを壊したくないと思い、言い出せない真実をひた隠し2ヶ月。
鈴蘭からは仕事の事は一切聞かれない。
賢い彼女の事だから、何かを察知しているのかもしれない。

晴明はそんな事を考えながら食事を取りに足を運ぶ。

部屋に入ると、いつも食事の支度をしているはずの鈴蘭がいない。

「鈴蘭はどうした?」
不思議に思い女中頭の油淋に問う。

「服装に一言言われたのはどなたでしたか?」
嫌味のような返答が返ってくる。

「ああ…着替えてくれているのか。悪い事をしたな…。単なる言葉のあやだったのだが。」

「貴方様のお言葉はそれだけ重く、大事なのですから。少し考えてから発して下さいませ。」

「家に帰ってまで、そんな事を気にしたくは無い。鈴蘭には後から謝っておく。」

「若様、お言葉ですが…。こちらは別邸であって、あなたが帰るべき場所は宮中にあります。
…出来るだけ早く、しっかりなさいませ。」
母親のように咎められ、晴明は素直に反省の色を見せる。幼少期から面倒を見てくれていた油淋は、晴明にとって本当の家族よりも親しい間柄だ。

今となってはちゃんと意見を述べてくれる少ない仲間のうちの1人だ。

「分かっている。
いい出さなければ何も始まらない事ぐらい…。」

「鈴蘭様は、きっと全てを受け止めて下さると思いますよ。そんなに慎重になり過ぎますと、どんどん言い辛くなるものです。」

「そうだな…。」
油淋のお小言を聞いていると、

「お待たせして申し訳ありません。
着慣れない衣装ばかりで…少し戸惑ってしまいました。」
鈴蘭の声でパッと顔を上げれば、

薄紫に絹に金の刺繍が施された、宮中服を着て来てくれる。

「…綺麗だ。」
簡素な言葉しか出ない自分を呪うが、それほどまでに息を飲むほど美しかった。

「額に入れて飾りたいな。」
そう晴明が呟くと、失礼な事に油淋がププッと吹き笑う。

「油淋…席を外せ。鈴蘭と2人きりで食事がしたい。」

「これは気付かず申し訳ございません。
どうぞ、ごゆっくりお召し上がり下さいませ。」

鈴蘭について来た寧々と共に去って行く。

少し緊張した面持ちで鈴蘭が席に着く。

「俺も、ちゃんとした服にした方が良かったな。」
晴明はこの場の空気を和ませたくてそう軽口を叩く。