夕方、使用人と共に玄関で晴明の帰りを出迎える。
「お帰りなさいませ。」
みんなと同じような衣装を着て、同じように頭を下げているのに、なぜ…この方は、直ぐに私を見つけてしまうのだろうか…。
鈴蘭は一食一半の恩義だと一生懸命お願いして、やっとの事でお仕事をさせて頂く事が叶った。
今までしてこなかった家事や料理を、女中頭の寧々の母親の元、寧々と共に楽しく習っている所だ。
今夜の料理の一つは鈴蘭が初めて1人で作った物が入っている。お口に会うと良いのだけれど…。
早く一座に戻りたいと申し出たにもかかわらず、気付けばこの別邸に来て2ヶ月が経っていた。
もう直ぐ長い冬も終わり暖かな春がやって来る。
旅立ちに相応しい季節がやって来る…。
「ただいま。鈴蘭…なぜ今日も女中のような格好をしているのだ?この前買ったはずの着物は、いつ着るつもりなんだ?」
帰って来てそうそうに見つけ出された鈴蘭は、晴明の困ったような、不貞腐れたような声を聞き顔を上げる。
「お帰りなさいませ。あの服は私には高価過ぎて…汚しては行けませんから。それに、普段使いには勿体無くて…。」
鈴蘭は頭を下げたまま話をする。本来ならば目を合わせてはいけない程の身分の差があるのだから…。
「そなたは女中ではない。
女中の真似事は…仕方なく許したのだ。俺の帰りを待ってくれるのなら、そなたのために買った着物を着て見せて欲しい。
そうだな。明日から隅から順に着て出てくれ。」
晴明は、そんな香蘭を半ば強引に手を取り引っ張り、女中の列から引き離す。そして鈴蘭が断れないような要求をしてくるのだ。
それは普段の晴明としては少々子供じみて見えて、ふふふっと鈴蘭はつい、笑ってしまう。
知れば知るほどこの人は、時に子供のような顔を見せ、かと思えば全てを包み込むような、包容力も兼ね備えている。日々いろんな顔を見せてくれる。
「何を笑っているのだ?俺は真剣に言っている。」
そう言いながら微笑んで、鈴蘭の頭を優しく撫ぜる。
晴明にしてみれば、彼女がただ笑っていてくれるだけで、嬉しくて幸せなだ。
今日1日の憂鬱さえも一瞬で吹き飛ばす。
そんな破壊力があるその笑顔を、許されるのならずっと一生見ていたいと、自分だけに向けられていたいと、密かに思っているくらいには鈴蘭を愛して止まない。
それはすでにただ漏れ状態で、この別邸の者からしてみたら、言わずもがなな公認の関係だ。
分かっていないのはただ1人、鈴蘭本人だけかもしれない。
「今夜は家庭料理でございます。私も寧々ちゃんも一緒に作ったので、どれが誰が作ったか当てて見て下さいね。」
鈴蘭が楽しそうに言って来るから、
「それは楽しみだ。例え不味くても全て食べ切ってやる。」
と、晴明が笑って揶揄う。
「食べられなくは無いと思いますよ。1番は残念ながら毒見役の方が、既に箸をつけられておりますが…。」
ふふっと鈴蘭がまた笑う。
最近の彼女はどこか吹っ切れたように明るい笑顔が増えて、軽口も叩くほどには心を許してくれている。
「毒味役めが、俺に許しもなく先に食するなんて許せないな。」
晴明も小気味良く受け答えしながら、楽しい時間を過ごす。
「お帰りなさいませ。」
みんなと同じような衣装を着て、同じように頭を下げているのに、なぜ…この方は、直ぐに私を見つけてしまうのだろうか…。
鈴蘭は一食一半の恩義だと一生懸命お願いして、やっとの事でお仕事をさせて頂く事が叶った。
今までしてこなかった家事や料理を、女中頭の寧々の母親の元、寧々と共に楽しく習っている所だ。
今夜の料理の一つは鈴蘭が初めて1人で作った物が入っている。お口に会うと良いのだけれど…。
早く一座に戻りたいと申し出たにもかかわらず、気付けばこの別邸に来て2ヶ月が経っていた。
もう直ぐ長い冬も終わり暖かな春がやって来る。
旅立ちに相応しい季節がやって来る…。
「ただいま。鈴蘭…なぜ今日も女中のような格好をしているのだ?この前買ったはずの着物は、いつ着るつもりなんだ?」
帰って来てそうそうに見つけ出された鈴蘭は、晴明の困ったような、不貞腐れたような声を聞き顔を上げる。
「お帰りなさいませ。あの服は私には高価過ぎて…汚しては行けませんから。それに、普段使いには勿体無くて…。」
鈴蘭は頭を下げたまま話をする。本来ならば目を合わせてはいけない程の身分の差があるのだから…。
「そなたは女中ではない。
女中の真似事は…仕方なく許したのだ。俺の帰りを待ってくれるのなら、そなたのために買った着物を着て見せて欲しい。
そうだな。明日から隅から順に着て出てくれ。」
晴明は、そんな香蘭を半ば強引に手を取り引っ張り、女中の列から引き離す。そして鈴蘭が断れないような要求をしてくるのだ。
それは普段の晴明としては少々子供じみて見えて、ふふふっと鈴蘭はつい、笑ってしまう。
知れば知るほどこの人は、時に子供のような顔を見せ、かと思えば全てを包み込むような、包容力も兼ね備えている。日々いろんな顔を見せてくれる。
「何を笑っているのだ?俺は真剣に言っている。」
そう言いながら微笑んで、鈴蘭の頭を優しく撫ぜる。
晴明にしてみれば、彼女がただ笑っていてくれるだけで、嬉しくて幸せなだ。
今日1日の憂鬱さえも一瞬で吹き飛ばす。
そんな破壊力があるその笑顔を、許されるのならずっと一生見ていたいと、自分だけに向けられていたいと、密かに思っているくらいには鈴蘭を愛して止まない。
それはすでにただ漏れ状態で、この別邸の者からしてみたら、言わずもがなな公認の関係だ。
分かっていないのはただ1人、鈴蘭本人だけかもしれない。
「今夜は家庭料理でございます。私も寧々ちゃんも一緒に作ったので、どれが誰が作ったか当てて見て下さいね。」
鈴蘭が楽しそうに言って来るから、
「それは楽しみだ。例え不味くても全て食べ切ってやる。」
と、晴明が笑って揶揄う。
「食べられなくは無いと思いますよ。1番は残念ながら毒見役の方が、既に箸をつけられておりますが…。」
ふふっと鈴蘭がまた笑う。
最近の彼女はどこか吹っ切れたように明るい笑顔が増えて、軽口も叩くほどには心を許してくれている。
「毒味役めが、俺に許しもなく先に食するなんて許せないな。」
晴明も小気味良く受け答えしながら、楽しい時間を過ごす。



