一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

それから4日間の祈祷をなんとかやり終え、鈴蘭は別邸に戻って行った。

祈祷のお陰か上皇も意識を取り戻し、最終日には床から鈴蘭の舞を見学するほどに回復した。その事に関しては良かったのだが…。

困った事に2日目から自由参列を促したのにも関わらず、参列者はどんどん増え続け、最後は立ち見まで出るほどだった。

誰も上皇を祈っている仕草はない。
ただ、鈴蘭の舞を見たいという邪な思いだけが渦巻いていた。

中には彼女を屋敷に招待したいと言って来る、不貞な輩もいたから、誰にも彼女の居所を伝えるなと、皇帝陛下自ら箝口令を敷く有様だった。

鈴蘭の魅力が大勢に知れてしまった。
晴明はその事だけを悔やむ。

彼女は一介の旅一座で埋もれていては勿体無いほどの踊り子だ。出会った頃からその事は1番よく分かっている。しかしその一方で、自分だけの鈴蘭でいて欲しいと、独り占めしたい衝動に駆られる。

そしてまだ大事な事を告げずに来ている事に、ジュクジュクと心の傷が傷み続ける。

その事を告げなければ、何も始まらないと言う李生の言い分も良く分かる。

だが、告げてしまえば彼女の事だ、せっかくここまで近付けたのに、また遠く離れてしまうと尻込みしてしまうのだ。

「皇帝陛下と言うほどの方が、何をウジウジとされているのか。」
李生から痛いほどの叱咤激励を受ける。

「もう少し、優しい言葉を選べないのか?
俺だって彼女の前じゃただの男だ…。何をどう伝えたら良いのか、考えあぐねて何が悪い。」
最近の晴明は、開き直っている節がある。

とどのつまり、鈴蘭に嫌われたくないのだ…嘘をついて近付いていた事を後ろめたくもある…。

だけど、失ったら生きていけないとまで思っているのだ。