「…鈴蘭…目が覚めたのか?
…どうした!?どこか痛いところでもあるのか?」
声がして、大きな暖かな手が私の頬を包む。
びっくりしてパッと目を開けると、すぐ横に晴明様が寝ていた。
「えっ⁈」
事の状況に頭がついて行けず、バッと起き上がり布団から出ようとすると、ぎゅっと抱き寄せられて彼の暖かな腕の中…
「落ちつけ。そなたは風呂場で倒れたのだ。
…心配で離れる事が出来ずにいたら、布団の中なのに寒さで震え始めたから、少しでも暖かいだろうと湯たんぽ代わりにここにいる。」
そう言って、私の背中をポンポンと撫ぜて落ちつかせる。
バクバクと心臓だけが激しく踊っている。
「えっと…あの…寧々ちゃんは?」
深呼吸して、やっとの思いで言葉を紡ぐ。
「寧々はひとまず奥の間に下がらせた。
今は真夜中だ。もう少し寝た方が良いが…何か食べれるか?とりあえず、温かいお茶を用意しよう。」
そう言うと、晴明様はそっと布団から出て行って、火鉢の上のやかんから慣れた手つきでお茶を入れる。
「あっ…申し訳ございません…。殿方にそんな事をさせてしまい…。」
皇帝陛下ともあろうお方が…!!
申し訳なくて、やり切れなくて…身なりを整え正座して頭を下げる。
「そなたは病人だ。病人は大人しく布団に入っていれば良いのだ。」
慌てて駆け寄って来た彼は、私を毛布に包み、温かなお茶を差し出すてくれる。
「…ありがとう、ございます。」
事の状況に頭がついて行かず…ただ、渡されたお茶をふうふうと冷ましながら、ちょっとずつ口に含む。
「…美味しい…。」
「脱水状態で水分も足りていなかったのだ。ゆっくりで良いから全部飲むんだ。あと、寧々が焼き餅を置いて行ったから、食べれそうなら温めるが?」
「…食べたいです。」
こんなに甘えてしまって良い人では決して無いのに…流されるまま言葉を紡ぐ。
「良かった…倒れたと聞いた時は肝を冷やした。
明日も無理はしなくていい。代わりの踊り子も探すように伝えてある。」
晴明様はどこまでも優しく、誰よりも寛大だ。
「大丈夫です、最後まで務めさせて下さい。無茶はしませんから…。」
せっかく与えられた役目なのだから、最後まで責任を持って果たしたい。
「…そうか、分かった。明日からは舞台に櫓を組んで雪や風を防げるようにするから、そなたは身体を1番に考えてくれ。」
「お気遣いありがとうございます。でも…私のような者にそこまでは不要でございます。」
慌ててそう言うのだが…
「俺がそなたに依頼したのだ。こんなに大変だとは知らずに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。だから、自己満足でしかないが、出来る限りの事はさせてくれ。」
「そんな風に思わないで下さい。
私にも、晴明様の為に出来る事があって良かったと思っているのですから。」
「鈴蘭が側に居てくれるだけで、それだけで俺は充分だ。ほら、焼き餅が焼けたからゆっくり食べろ。」



