一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

どこぞの誰かは知らないけど、私なんかの為にクビになってはいけないとそればかりが頭をよぎる。

死ぬ事なんて怖くない。
何度この人生を終わりにしたいと思った事か…。

「姐様、舞台袖までお供します。」
寧々ちゃんが慌ててやって来て、私の衣装の裾を踏まないように持って一緒に廊下を急いでくれる。

「…先程の髪結師のご忠告お聞きになりましたか?くれぐれもお気を付け下さい。」
寧々ちゃんも知っていたのかと思わず早足で歩きながら振り返る。

「あの、髪結師さんが誰だか知っているの?」
私は小声で問いただす。
すると寧々ちゃんは急に大人びた表情になって、

「私の本当の主人(あるじ)でございます。
どうか、信じて下さいませ。こんな所で貴女が命を落とす必要はないのです。お守りさせて頂きます。」

えっ⁉︎と驚き舞台袖の暗がりで、もう一度寧々ちゃんを振り返る。

するとどのようにして来たのか、先程の髪結師も反対側の舞台袖に控えているから、また驚く。

この人は…何者なの!?

頭の中は混乱状態…聞きたい事は幾つもあるけど、それでも音楽が奏始める。

後ろ髪ひかれる思いで、だけど舞台に穴を開ける訳にはいかないと舞台上へと足を運ぶ。

眩い光に照らされて一瞬目が眩む。
客席から沢山の歓声が聞こえてくる。

一瞬気持ちが負けそうになり足が竦みそうになる。
それでも、ぎゅっと足を踏ん張り舞台の中央に立ち、大きく息を吸い込み歌を唄い始める。

私の命なんて石ころ程にも及ばない…
なのになぜ、狙われているのか分からない…

唄も無事に中盤に入り、このまま何事も無く終わるだろうと安堵し始めた時、突然舞台の暗がりに光る物を見る。

キラリと光った物が何なのか認識する余地もなく、大きな影に視界を遮られ急に光を失う。

キャーキャーと大混乱に堕ちいる観客の声

先程まで舞台で曲を奏ていた楽師達も、点でバラバラに逃げ惑う。

私はただ呆然と大きな黒い影に守られ、一歩たりとも歩み出せずにその場に佇む。

黒い影は不意にこちらに向き直り、軽々と荷物のように私を肩に担ぎ上げ全速力で走り出す。

私はというと振り落とされないように、目をぎゅっと閉じて必死でしがみつくしかなくて…。

風をビュービューと切る音、時折り剣がカキンと交わされる音だけが耳に鳴り響いた。