トントントントン…小気味良く近付いて来る足音に、ハッとして息を飲む。
「鈴蘭、まだ居るか?俺だ、入るぞ。」
よく響く重低音の声をひそめ、こっそりと入って来た彼は紛れもなく晴明様だった。
手が、身体が…心が震える…
「…寒いのか!?」
突然抱きしめられて、ぎゅっと心臓が痛いほど軋む。
ここ数週間でいつの間にか近くなってしまった距離は、もう後戻り出来ないくらい胸の高鳴りを覚える。
「だ、大丈夫で…ございます。」
震える声でそう伝えるが、
「震えているではないか。寧々早く湯殿の準備を。」
晴明様はそう言うや否や、私を抱き上げ先を急ぐ。
すると、ゴホンっと李生様がわざとらしく咳をする。
「若、ここをどこかお忘れですか?
神聖なる皇居の後宮でございます。そのように歌姫を抱き上げて歩かれては、無い噂も立つ事でしょう。」
そう言って行く手を阻む。
「俺が抱き上げて歩く方が早い。鈴蘭が寒さで震えているのだ。それに華宮までは距離がある。」
「残念ですが、今宵から鈴蘭様はこの奥宮でお泊まりになります。他人の目もございますので、鈴蘭様の為にも場を弁(わきま)えて下さい。」
李生様が頭を下げてお願いしている。
「私が姐様のお側におりますのでご心配なさらないで下さい。」
寧々ちゃんもそう言ってにこりと微笑む。
「…分かった…。鈴蘭、部屋に軽食を運んでおくから一緒に食べよう。部屋で待っている。」
晴明様は残念そうにそう言って、そっと下ろしてくれた。
「ありがとうございます。…お仕事お忙しいでしょうし…私の事はお気遣いなく。」
これ以上、この方に甘えては行けないと…ちゃんと分をわきまえなければと思うのに、一言伝えるだけで涙が溢れそうになってしまう。
俯きながら目を合わせる事も出来ず、控え室を離れようと、頭を下げて扉に向かう。
あっ…大切な事を忘れていた。
「あっ…あの、お借りした履き物を返し忘れてしまうところでした。」
机に置いてあった履き物を手に取り、包み紙に丁寧に包み晴明様に両手で差し出す。
すると、それを私の手ごと両手で握りしめてくるから、思わず驚き煽り見る。
視線が絡み緊張する。
「とても素晴らしい舞と唄をありがとう。そなたの思いが溢れるような舞台だった。これほど感動した事はない。始めにそう伝えなければいけなかったな。
明日から残り4日、大変だと思うが…よろしく頼む。」
晴明様の手の温もりと、その優しい眼差しにどうしても心を奪われてしまう。
「いえ…このような大切な儀式に参加させて頂けた事、とても光栄に思います。誠心誠意務めさせて頂きます。」
と、伝える。
「俺は…このように激しく、大変な舞台なのだと何も知らず、気楽にそなたに頼んだ事を悔んでいる。申し訳ない。ただただ…そなたの体調が心配だ。
あまり、頑張りすぎないで欲しい。」
晴明様はそう言って私の頬にそっと触れる。
「私は大丈夫です。」
私は精一杯の笑みで伝える。これ以上、この方の重荷になりたくない。少しでもお役に立てるのであれば、それだけで嬉しい。
どうか…私の為にそのような辛そうな表情して欲しくない。
触れた指先から冷んやりが伝わり晴明が驚く。
「どこもかしこも、氷のように冷たいではないか…。
とりあえず、身体を温める為に湯殿へ。」
背中を優しく押して先を促してくれる。
ふと、足元に目をやれば…借りていた下履きと同じ物を履いていた…。
ああ、やはりこの方が皇帝陛下に間違えない。
「鈴蘭、まだ居るか?俺だ、入るぞ。」
よく響く重低音の声をひそめ、こっそりと入って来た彼は紛れもなく晴明様だった。
手が、身体が…心が震える…
「…寒いのか!?」
突然抱きしめられて、ぎゅっと心臓が痛いほど軋む。
ここ数週間でいつの間にか近くなってしまった距離は、もう後戻り出来ないくらい胸の高鳴りを覚える。
「だ、大丈夫で…ございます。」
震える声でそう伝えるが、
「震えているではないか。寧々早く湯殿の準備を。」
晴明様はそう言うや否や、私を抱き上げ先を急ぐ。
すると、ゴホンっと李生様がわざとらしく咳をする。
「若、ここをどこかお忘れですか?
神聖なる皇居の後宮でございます。そのように歌姫を抱き上げて歩かれては、無い噂も立つ事でしょう。」
そう言って行く手を阻む。
「俺が抱き上げて歩く方が早い。鈴蘭が寒さで震えているのだ。それに華宮までは距離がある。」
「残念ですが、今宵から鈴蘭様はこの奥宮でお泊まりになります。他人の目もございますので、鈴蘭様の為にも場を弁(わきま)えて下さい。」
李生様が頭を下げてお願いしている。
「私が姐様のお側におりますのでご心配なさらないで下さい。」
寧々ちゃんもそう言ってにこりと微笑む。
「…分かった…。鈴蘭、部屋に軽食を運んでおくから一緒に食べよう。部屋で待っている。」
晴明様は残念そうにそう言って、そっと下ろしてくれた。
「ありがとうございます。…お仕事お忙しいでしょうし…私の事はお気遣いなく。」
これ以上、この方に甘えては行けないと…ちゃんと分をわきまえなければと思うのに、一言伝えるだけで涙が溢れそうになってしまう。
俯きながら目を合わせる事も出来ず、控え室を離れようと、頭を下げて扉に向かう。
あっ…大切な事を忘れていた。
「あっ…あの、お借りした履き物を返し忘れてしまうところでした。」
机に置いてあった履き物を手に取り、包み紙に丁寧に包み晴明様に両手で差し出す。
すると、それを私の手ごと両手で握りしめてくるから、思わず驚き煽り見る。
視線が絡み緊張する。
「とても素晴らしい舞と唄をありがとう。そなたの思いが溢れるような舞台だった。これほど感動した事はない。始めにそう伝えなければいけなかったな。
明日から残り4日、大変だと思うが…よろしく頼む。」
晴明様の手の温もりと、その優しい眼差しにどうしても心を奪われてしまう。
「いえ…このような大切な儀式に参加させて頂けた事、とても光栄に思います。誠心誠意務めさせて頂きます。」
と、伝える。
「俺は…このように激しく、大変な舞台なのだと何も知らず、気楽にそなたに頼んだ事を悔んでいる。申し訳ない。ただただ…そなたの体調が心配だ。
あまり、頑張りすぎないで欲しい。」
晴明様はそう言って私の頬にそっと触れる。
「私は大丈夫です。」
私は精一杯の笑みで伝える。これ以上、この方の重荷になりたくない。少しでもお役に立てるのであれば、それだけで嬉しい。
どうか…私の為にそのような辛そうな表情して欲しくない。
触れた指先から冷んやりが伝わり晴明が驚く。
「どこもかしこも、氷のように冷たいではないか…。
とりあえず、身体を温める為に湯殿へ。」
背中を優しく押して先を促してくれる。
ふと、足元に目をやれば…借りていた下履きと同じ物を履いていた…。
ああ、やはりこの方が皇帝陛下に間違えない。



