(鈴蘭side)
祈祷を無事終え、息絶え絶えに楽屋に戻る。
今出来る最善を尽くして誠心誠意、上皇に祈りを捧げたつもりだ。
どうか回復なさいますように…。
夕飯も食べずに踊り続けたせいか、胃の辺りがキリキリと痛み出す。フーッとひと息ついて、晴明様からの差し入れの生姜湯をゆっくりと飲む。
「美味しい…。」
つい言葉が漏れ出てしまうほど、冷えた身体に染み渡り、やっと解放された面持ちがした。
「姐様。とても素晴らしい唄と舞でした。ご祈祷の舞を初めて見たのですが感動しました。」
寧々ちゃんが感無量とばかりに、拍手と賞賛を送ってくれる。
「ありがとう。少しでも上皇様が回復されると良いのだけど…。」
そう話しながら、寧々ちゃんに手伝ってもらいながら、濡れた衣装を一枚ずつ脱いで行く。
そして暖かな服に着替えると、このまま寝てしまえたらなんて楽なんだろと思いながら、昨夜の晴明様を思い出す。
そして…
今朝早く去って行った時に貸してくれた履き物を見つめる。
それはとても高級そうな革細工で、中はふかふかの動物の毛に覆われていてとても暖かかった。
外側は黒地に金の糸で国花とされる桜が刺繍されていた。世間に疎い私でさえも、かなりお高い品であろうと思われるそれを、どこかで彼に会えたなら早く返さなければと思い、今朝からこっそり持ち歩いていたのだが…。
先程舞台に立つ前の口上の挨拶で、同じ物を履いている人物を見つけてしまった…。
それは…紛れもなく、最前列にいる皇帝陛下だったのだ。
庶民の私にとって、お顔を拝見する事は決して叶わない方だから、平伏したまま終始足元だけを見つめていたから、見間違えることは無いだろう…。
気が付いた瞬間、ドキンと心臓が嫌な音を立てて跳ねた。
他の下臣の方々の足元を見たけれど、誰として同じ物を履いている方はいなかった…。
この国で最もお高い位の皇帝陛下なのだから、彼の名を知る者は少ないし、その名を呼ぶ事を許される者は一握りだろう…。
神聖なる祈祷の場で、彼の名を呼ぶただ1人の人物…それは紛れもなく上皇后様ただお1人…そのお方が…
『晴明』と、彼の事を呼んでいた…。
衝撃的な瞬間だった。
そこからは全てを忘れるように、一心不乱に踊り続けた。
そして…幕が閉じた今、忘れる事など出来る訳もなく…。
その下履きを目の前にして足がすくむ。
ただのしがない役人だと屈託なく笑う笑顔に、いつしか淡い恋心のようなものを感じていた。許される事の無い淡い恋心…。
そして今、現実はもっと残酷に色を変える。
祈祷を無事終え、息絶え絶えに楽屋に戻る。
今出来る最善を尽くして誠心誠意、上皇に祈りを捧げたつもりだ。
どうか回復なさいますように…。
夕飯も食べずに踊り続けたせいか、胃の辺りがキリキリと痛み出す。フーッとひと息ついて、晴明様からの差し入れの生姜湯をゆっくりと飲む。
「美味しい…。」
つい言葉が漏れ出てしまうほど、冷えた身体に染み渡り、やっと解放された面持ちがした。
「姐様。とても素晴らしい唄と舞でした。ご祈祷の舞を初めて見たのですが感動しました。」
寧々ちゃんが感無量とばかりに、拍手と賞賛を送ってくれる。
「ありがとう。少しでも上皇様が回復されると良いのだけど…。」
そう話しながら、寧々ちゃんに手伝ってもらいながら、濡れた衣装を一枚ずつ脱いで行く。
そして暖かな服に着替えると、このまま寝てしまえたらなんて楽なんだろと思いながら、昨夜の晴明様を思い出す。
そして…
今朝早く去って行った時に貸してくれた履き物を見つめる。
それはとても高級そうな革細工で、中はふかふかの動物の毛に覆われていてとても暖かかった。
外側は黒地に金の糸で国花とされる桜が刺繍されていた。世間に疎い私でさえも、かなりお高い品であろうと思われるそれを、どこかで彼に会えたなら早く返さなければと思い、今朝からこっそり持ち歩いていたのだが…。
先程舞台に立つ前の口上の挨拶で、同じ物を履いている人物を見つけてしまった…。
それは…紛れもなく、最前列にいる皇帝陛下だったのだ。
庶民の私にとって、お顔を拝見する事は決して叶わない方だから、平伏したまま終始足元だけを見つめていたから、見間違えることは無いだろう…。
気が付いた瞬間、ドキンと心臓が嫌な音を立てて跳ねた。
他の下臣の方々の足元を見たけれど、誰として同じ物を履いている方はいなかった…。
この国で最もお高い位の皇帝陛下なのだから、彼の名を知る者は少ないし、その名を呼ぶ事を許される者は一握りだろう…。
神聖なる祈祷の場で、彼の名を呼ぶただ1人の人物…それは紛れもなく上皇后様ただお1人…そのお方が…
『晴明』と、彼の事を呼んでいた…。
衝撃的な瞬間だった。
そこからは全てを忘れるように、一心不乱に踊り続けた。
そして…幕が閉じた今、忘れる事など出来る訳もなく…。
その下履きを目の前にして足がすくむ。
ただのしがない役人だと屈託なく笑う笑顔に、いつしか淡い恋心のようなものを感じていた。許される事の無い淡い恋心…。
そして今、現実はもっと残酷に色を変える。



