一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

上皇后が部屋を出たと通達が来る。

彼女より早く席に付かなければ、後でくどくどとお説教を食うだろう。急いで部屋から祭儀場へと足を運ぶ。

既に見覚えのある家臣は席に着いていた。3人の側室も暖かそうなら格好で、足元には火鉢に毛布も用意されている。

俺が席に着いてから、1分足らずで上皇后もやって来て式が始まる。

まず最初に、かき集められた街中の住職達の口上から始まり、楽師達と鈴蘭が手前まで足を運び挨拶をする。

そこで気付く。暖かいだろうと思って即席で敷かせた真っ赤な絨毯が、雪を含んで濡れている事に…。
これでは…氷の水の上を歩くようなものでは無いか⁉︎

内心慌てて鈴蘭の足元を見る。
すると、先程まで履いていた深々の下履きが見当たらない。
なぜか彼女は裸足になって素足を晒しているのだ。
バクバクと嫌な音を立てて心臓が震える。

これでは自殺行為じゃないか…。
それでも今、この場で駆け寄り抱き上げることは許される筈もない。

俺の彼女に会いたいという浅はかな我儘のせいで、彼女を大変な所に導き出してしまった事を、今思い知り打ちのめされる。

舞台の中央には、軍師に頼み作られた即席の屋根がある。蚊帳のような造りになっていて正面だけを避け三方向に布が垂れ下がっている。

どうかあの場所だけは濡れないように守ってくれ。
神なんていないと思って生きて来た俺が、今ここで初めて神に祈りを捧げる。

どうか鈴蘭の足元だけは暖かいままであるように。

楽師達の緩やかな音楽が始まり、それに合わせて鈴蘭が舞始める。
それは天女が舞うように優雅で、一瞬でこの場にいる人々を釘付けにする。

普段、まだあどけない顔をした少女のような彼女だが、舞台に上がると一瞬に妖艶な雰囲気に変わる。

本当に同一人物なのかと思うくらい。神が彼女に憑依しているかのような神々しさまで感じる。

音楽はゆったりとした流れから、徐々に激しくなって行く。それに合わせて鈴蘭は剣を持ち出し、今度は厳しい表情になり少年剣士のような振る舞いで、剣の舞を踊る。

ここにいる全ての者達を魅力して、俺の心を鷲掴みにする。